20 / 62

自覚①

今日は学校自体は休みの日だ。けれど、蓮斗は校舎内を歩いていた。課題に使うプリントを忘れてしまったため、取りに来たのだ。校庭では部活動に勤しむ生徒達が駆け回っている。土を踏む足音や、響く声を耳に入れながら廊下を進んでいく。 教室に着くと引き出しからプリントを取り出した。そのとき、換気のために開けられていた窓から風が吹き込んできて、手に持っていたプリントが飛ばされてしまう。廊下へと飛び出し旋回したプリントが、ゆっくりと床へと落ちていく。慌てて追いかけて拾おうとしたとき、目の前を歩いていた生徒が落ちたプリントを拾い上げた。 「輝……」 「やあ、蓮斗。休みなのに珍しいね」  近づいてきた輝がプリントを手渡してくれる。受け取ると鞄へとしまう。そこから顔を上げることができない。想いを自覚してから初めての会話だ。緊張で言葉が出てこない。顔が見れず、うつむいていると輝が膝を曲げて覗き込むように視線を合わせてきた。  突然好きな人の顔が目の前に現れたことで、蓮斗の顔が真っ赤に染まる。その初心な反応を見ていた輝がクスリと笑みをこぼした。 「近いんだけど……」 「ふふ、照れちゃった?」 「っ、別に照れてないし。てか、なんであんたはここにいるわけ?」 「可愛い。俺は生徒会の仕事だよ」  生徒会と聞いて、少しだけムッとしてしまう。また志乃と一緒に居たのだろうか。それは嫌だ。蓮斗は自分が思うよりも志乃を敵視していることに気がついて、少しだけ恥ずかしくなる。志乃の存在を意識するたびに、輝への想いを自覚させられてしまうようでむず痒い。 「……吉澤先輩も一緒?」 「今日は俺一人だよ。志乃がどうかしたのかい?」 「一人ならいい」  そっぽを向いて話を切る。やきもちを焼いたことなど言えるはずもない。顔は相変わらず熱いまま。素直に気持ちを伝えられないのは、アリステラのときから変わらない。この捻くれた性格のせいで損をすることも多かった。けれど、今更変えることはできない。 「もしかしてやきもち?」 「そんなんじゃないから!」 「うーん。本当かな?」  輝の指先が蓮斗の頬へと触れてくる。感じる体温に、顔の熱は更に高まった。伸びてきていた手が、突然蓮斗の腕を掴む。驚いたのも束の間、そのまま近くの階段下まで連れて行かれた。人目につかない薄暗い場所。その壁に追い詰められた蓮斗は、潤んだ瞳で輝の顔を見つめる。 通った鼻筋や、長いまつげが視界に入る。少し下を見れば、少しだけ薄い綺麗な形をした潤む唇が目につく。 「志乃と俺が一緒に居るのは嫌?」 「っ、それは……」  素直に答えられるわけがない。そんなことを口にすれば、気持ちを認めるも同然だ。輝はそれをわかっていて言わせようとしている。本当に性格が悪い。  いつもの勢いを出せず、拒否できない蓮斗。その様子を楽しげに観察している輝が憎らしい。 「教えてくれないならキスしちゃうかも」 「っ、はぁ!?」 「ほら、教えて」 「ちょっ~~」  どんどんと近づいてくる輝に意識を奪われて、頭が真っ白になっていく。けれど、これ以上は蓮斗のキャパが足りなくなってしまう。ぐっと目をつむり、意を決して口を開ける。 「そ、そうだよ!やきもちっ!もう、これで満足でしょう!!」 「ふっ、本当に可愛い」 「え、っ!」  蓮斗が気持ちを伝えた瞬間、輝が唇を重ねてきた。素直に気持ちを伝えたはずなのに約束を破った輝を、蓮斗は熱を帯びた涙目で睨む。けれど、その視線は輝を煽るばかりで、効力は一切ない。

ともだちにシェアしよう!