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世界で一番欲しい言葉
やがて大河が小さく笑った。
「やっぱり勝負つかねぇか」
「先生らしい答えですね」
「ごめんね」
「別に謝らなくていいよ」
「ちょ、ちょっと二人とも⁉」
夏目が煮え切らない態度をとっていると、逃げ場を失った夏目を挟むように、大河は右隣へ、宗次郎は左隣へ腰を下ろす。
三人掛けのソファーは大人三人が並ぶには少し狭く、肩と肩が自然と触れ合った。
「なぁ、夏目」
大河が楽しそうに笑う。
「今日はちゃんと答えろよ。俺と宗次郎、どっちの舞台が格好よかった?」
「だからさっきも言ったでしょう? 二人とも……」
「その答えは禁止です!」
「またそれ?」
困ったように笑う夏目を見て、宗次郎がくすりと微笑む。
「先生はいつも逃げるんですから」
「逃げてるわけじゃないですよ。本当に二人とも素晴らしかったんだから……」
「じゃあ、ご褒美はもらってもいいよな?」
「え?」
言い終わるより早く、大河がそっと身を寄せる。
「いつも見守っていてくれてありがとう。でも、次回はちゃんと舞台を見に来てくれよな?」
そう囁くと、夏目の首筋へ軽く唇を寄せた。
「……っ⁉」
くすぐったさに肩を震わせる夏目を見て、大河は満足そうに笑う。
「やっぱり反応が可愛い」
「た、大河……!」
「おい、大河! 抜け駆けは禁止だぞ!」
穏やかな口調でそう言った宗次郎は、夏目の反対側へゆっくり身を寄せた。
「ねぇ、先生」
名前を優しく呼ばれ、夏目が振り向いた瞬間。
宗次郎は微笑みながら、そっと夏目の頬へ優しく口づけを落とした。
「いつも僕たちのことを見届けてくれて、ありがとうございます」
「宗次郎まで……」
両側から見つめられ、夏目の頬はみるみる赤く染まっていく。
「もう、本当に二人とも……」
「夏目が照れてる」
大河が嬉しそうに笑う。
「先生、耳まで真っ赤ですよ」
宗次郎まで優しく笑みを深める。
「そんな顔されたら、また次の舞台も頑張ろうって思えます」
「俺も」
大河は夏目の肩へそっと頭を預けた。
「世界中の人に格好いいって言われるより、夏目に褒めてもらえるほうが何倍も嬉しい。」
「僕も同じです」
宗次郎も静かに頷く。
「先生の『格好よかった』という一言が、僕たちにとって一番のご褒美なんですよ」
夏目は照れ隠しに小さくため息をつく。
「そんなこと言われたら、次回は観に行かないわけにはいかないじゃないですか?」
「じゃあ約束な」
「次の舞台は、一番前で僕達を見ていてください」
「はい」
夏目が笑って頷くと、大河と宗次郎も顔を見合わせて満足そうに笑った。
結局、その日も「どっちが一番格好よかったのか」という勝負に決着はつかなかった。
「でも、次の舞台で絶対勝つ」
「僕も負けないからな」
夏目は左右を見比べながら苦笑した。
「また競うんですか?」
「当たり前だろう?」
「先生に一番格好いいって言ってもらうまで終わりません」
「終わらない勝負だね」
また子どものような言い争いを始めた二人を見てそっと溜息をつく。でも、そんな言い争いを見ていると「愛されてるんだな……」と感じることができて、なんだかこそばゆい。
「まだまだ続くに決まってるだろう?」
「恐らく一生続きます」
「夏目の気持ちが決まるまでは……な?」
二人は笑い合う。
その笑顔を見た夏目も自然と笑っていた。
世界中の誰よりも眩しく輝く二人が、たった一人の感想を欲しがって張り合う。
そんな少し困った恋人達を見つめながら、夏目は胸の奥に広がる幸せを静かに噛みしめるのだった。
【番外編 完】
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