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「旅の劇団、ですか?」  小さな雑貨屋の狭いバックヤードで、ヒューゴは店主に聞き返した。 「そうなのよ。大体二、三ヶ月ごとぐらいに街から街へ移動しては、広場なんかに芝居小屋を構えて巡業しているらしいわ」  ヒューゴより一回りほど年上で店を切り盛りするアンナは、ふくよかな頰を赤らめて喋り続ける。 「せっかくだから公演初日に旦那と一緒に観に行ってみたんだけど、結構良かったわよ。この街では騎士と姫の恋を描いた演目をやってて、主演の二人がそれはもうとんでもない美男美女なのよ」 「へえ。やっぱりそういう芸術的な分野のお仕事をされている方は、お綺麗な人が多いんですかね」 「それがね、顔だけじゃなくて演技も上手いのよ。脇役も個性的な役者が多かったけど、みんなプロフェッショナルよ。わざわざ外国から来て活動しているらしい俳優もいてね……」  商品の品出しついでの雑談が思ったより長くなり始めたところで、来客を知らせるドアベルの音が響いた。店主以外にはたった一人の従業員であるヒューゴが慌てて表に出ると、あまり会いたくない客人がドアの前に立っている。 「出てくるのが遅い。店番一つまともにできないのか、お前は」 「ライニール……何か探している物でも?」 「髪飾りを探している。女性への贈り物だ。色事に疎いお前では話にならん。アンナ殿を呼んでくれ」  高い身長と頑強な手足を窮屈そうに折り曲げ、無愛想な美丈夫はヒューゴに注文を出す。  ライニールとヒューゴは同い年だが、社会的なヒエラルキーには天と地ほどの開きがあった。互いに生家が近い所にあり、幼い頃から顔を見て育ったが、仲が良いとは言えないとヒューゴは思う。かたや幼少期から座学でも剣術でも魔術でも他の追随を許さぬ美貌の秀才、かたや何をやらせても平凡以下で容姿もパッとしない落ちこぼれ。平民の出身でありながら貴族の護衛騎士にまで昇り詰めたライニールと、小さな商店勤めで日銭を稼ぐのがやっとのヒューゴ。  何でも持っているライニールが持たざる者であるヒューゴを目の敵にするのは、ある意味当然と言えた。 「おや、ダミアン侯爵様のところのライニール様じゃありませんか。また女の子相手に贈り物ですか? 相変わらず隅に置けませんねえ」 「おお、アンナ殿。先日貴女の見立てで購入したイヤリングですが、非常に喜んでいただけました。感謝申し上げます」 「いいえ、そんな。またいつでもお申し付けくださいまし」 「早速だが、自分より少し年上で派手好みの女性に贈る髪飾りを探していて……」  店主といけ好かない客人が親しげに会話を交わす様子に、ヒューゴは胸焼けするような不快感を覚える。ライニールはヒューゴを嫌っている割には頻繁にこの店を訪れ、やれ同僚の知り合いの令嬢だの酒場で意気投合した女の子だのに贈るプレゼントを見繕ってもらっている。異性関係どころか同性の友人すらろくにいないようなヒューゴには嫌味としか思えない。 「それでしたらこちらがお勧めかと。バラの花弁をあしらったバレッタで、着けていると髪の毛に目が行くので、頭身が高く見えますよ」 「ほう。では、それを一つ包んでもらえるか」  優秀な同い年の幼馴染みは、ヒューゴが三ヶ月ほど働いてやっと買えるような値段のアクセサリーを即決で購入して店を出て行く。 「いやあ、ライニール様が来てくれると上物がさっさと売れるから助かるわ。そうそう、それでさっきの話だけど」  肝の据わった店主はあっさり言ってのけると、ヒューゴに向き直ってまた話し出す。 「今この街に来ている劇団、ノーデルリヒトの公演チケットが余っちゃったのよ。お友だちともう一回行く予定だったんだけど、都合が合わなくなってね。ヒューちゃん、良かったらもらってくれない?」 「でも、僕はお芝居とか分かんないですし……」 「分からなくてもいいのよ。詳しい人はモチーフの意味とか劇作家の意図とかあれこれ考えながら観るけど、何となく面白いな、綺麗だなって観てみるのも立派な鑑賞よ」  アンナは一枚の券を半ば無理やりヒューゴに押し付けながら、そんなことを口にした。

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