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第4章 元カレとお世継ぎ問題 第7話
「不器用、か」
機械の稼働音に紛れる程度の小声で、呟いた。うん、これも異常なし、と。
地下一階の半分を占める機械室の点検も、僕の仕事だ。純粋に楽しい。元の世界では見たことがなかった技術も、培った知識の発展として理解できる。恋に比べれば、単純で簡単なことだ。
世界を守るため、ラトゥリオ様のそばにいるのも、言ってみればメンテナンス要員だ。本意ではない行為を強いるのではないかと、彼はしきりに気にしていた。機械に例えるなら、休まず稼働させて無理が来ていた状態なのに、僕の手を借りることに罪悪感を抱いて。自制が足りなかった、って……。
安定したらしたで、また一人で堪えるつもりで、僕を帰そうと突っ走った。アントス様に手紙まで書いて。自分は幸せになってはいけない、と頑なに戒めているようにも思える。初めての恋があそこまで悲しい結果になったんだから、無理ないかもしれないけど……。
不器用な王様と、恋が初めての僕。案外お似合いかもしれない。って、自分で言ってどうする。
小さく苦笑した時、駆け込んでくる足音があった。機械の陰から顔を出して覗くと、上で休憩していた男性が、同僚のところへ駆けていくのが見えた。
「おい、やったな! おめでとう!」
「え? ……生まれたのかっ」
「ああ、女の子だってよ! 今、知らせがあった!」
「そうか……そうかぁ!」
「あのおませさんも、これでお姉ちゃんってわけだ」
どうやら、奥さんが無事出産したらしい。「おませさん」っていうのは、「いつけっこんしきするのー?」の子だ。
僕は彼らのところへ歩いていき、お祝いを述べて早帰りをすすめた。
「あとは僕が見ておくから。どうですか、主任さん?」
知らせを持ってきたのが主任さんだ。
「ここはレオ様に甘えさせてもらって、早く行ってやれよ」
「ありがとうございます、レオ様っ」
彼は顔を真っ赤にして、階段を駆け上がっていった。僕は主任さんと微笑を交わし、作業に戻った。
結婚式かぁ……。あれから、王宮を三週間近く離れていたり、戻ってきたらとんでもない提案をされたりで、全然そんな話にならない。ラトゥリオ様は、少なくとも、僕を帰すと思い詰めていた時は結婚どころじゃなかっただろうし。あの女の子への、「花を持つ係を」っていうのは、あの場での勢い、お愛想……それだけかもしれない。いいんだ、僕は。これ以上ないくらい幸せなんだから。
ただ……考えないようにしていても、厳然と立ち塞がる問題がある。お世継ぎのことだ。アストゥラ国は、国王夫妻のどちらかが中和の力を持ち、それを血で繋いで現在まで続いてきた。ラトゥリオ様も、いずれ誰かとの間に子をもうけることになるんだろうか。僕は無理だから……誰か、と。
「ふぅ……」
クラっときた。少し休もう。
同じフロアの一角にある休憩室で、冷たいお茶を飲んだ。浮かんだ考えは精神衛生上あまりよくないけど、いつかは向き合わないといけないことだ。
魔力は、ある程度は遺伝によるものだ、とラトゥリオ様が言っていた。例えば僕は、遺伝でも何でもない、偶然の産物だと思う。中和の力も含め、魔力を持っていない人から、力のある子が生まれることもあるんだろう。十五年前は、中和の力を持つ人はアリシア様だけだったけど、その後に、どこかに生まれているかもしれない。今回、ラトゥリオ様の暴走を止めるには、年齢的に僕しかいなくて、だから僕が異世界の住人だと初めから分かっていた……うん、そういうことなんだろう。そこまではいい。
「だけどこの先は……」
婚姻可能年齢となった自薦他薦の娘さんたちが、再び花嫁候補に挙がる日がやってくる。中和の力を持ち、子を産み、王家の血を次代に伝えていける女性。
またクラっときた。お茶を飲み干し、唇を噛む。
ラトゥリオ様が王としての役目を果たすのを、口出ししたり止めたりすることはできない。僕は、僕の役目を果たすまでだ。
僕の役目――四種の魔力の暴走を食い止めること。魔力の相性が合うから、効果があった。それなら……今後、僕以外にも、相性のいい人が現れるんじゃないか? その人が王妃様になる……そしたら、僕は……。
首を振り、暗い考えを頭から追い出した。僕も、一人で突っ走るのは同じじゃないか。ラトゥリオ様は、愛していると言ってくれた。その気持ちを疑うことはしたくない。今、できることを精一杯やろう。積み重ねていくものが、自分の足場になるんだ。
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