32 / 50

第4章 元カレとお世継ぎ問題 第8話

 作業を終えて一階へ戻ると、二人の王様が中庭の方から歩いてくるところだった。黒と白の長身の一対が、マントをふわりと揺らし、仲睦まじく語らっている。世界を半分ずつ背負って。  ドキンと胸が強く打った。ドキドキドキドキ……音はどんどん大きくなる。周りに響いたらどうしよう。アントス様と打ち解けて話すラトゥリオ様。大人同士の寛いだ空気が漂っている。    十代で世界の反対側に別れ別れになってしまったけど、彼らの時間は育っていたんだ。思いやり、支え合い、同じ早さで成長してきた。だから今、同じ歩調で、同じものを見て、前へ進んでいける。会うのは十五年ぶりでも、心の中で手を携えて、お互いのことを毎日想ってきたんだ。恋人ではなくなっても、親友として、盟友として、相手の人生の中に存在し続けることを選んだ。運命に翻弄され、仕方なく追いやられた道ではなく、彼らの選択なんだ。だからこそ、僕のために命を賭けて、アントス様に後を任せるという案も生まれた。思いつく方も、承諾する方も普通じゃない。絶大な信頼関係の証だったんだ。  二人が醸し出すのは、過去の悲しみではなく、『今』から『未来』をつくり出す生命力。彼らが国のトップなら安泰は約束されていると、何の疑いもなく信じられる。統治者としての存在の大きさをあらためて実感し、ラトゥリオ様に惚れ直してしまった。僕に見せる甘々な顔と違いすぎる! 「レオ」と、彼の口が動いた。難しいことは考えず、駆け寄った。二人に優しく見下ろされ、アントス様の柔らかい声が降ってきた。 「今から地下に行くところだったんだ。帰る前に、君に挨拶をしたくてね」 「えっ。もうお帰りになるんですか」  まだ数時間しか経っていないのに。 「目的は果たせたからね。ありがとう。君のおかげで、本当に久しぶりにラトゥリオに会えたよ」 「アントス様……」  何か言いたい。僕の方こそ? お会いできて嬉しかったです? いや、会えたら聞きたいと思っていたのは――。  ラトゥリオ様は、僕たちの視線が交わるのを黙って見守っている。緑の瞳がキラリと光り、白と金の王様が僕の名を呼んだ。 「レオ」 「はい……ンッ!?」  な、何でキス!? 避ける間もない早業。翠玉が細められ、舌がちろりと唇をなぞった。花の中心に囚われて抜け出せなくなるような口づけ。片腕で腰を抱かれているだけなのに、すごい力で逃げられない。離してくださいー!  ぐいっと肩を引かれた。ラトゥリオ様だ。はぁ……こっちもすごい力だ。 「ハハッ、焦ってる」 「どういうつもりだ、アントス!」 「君は僕のハートを持ち去ってしまった。だから君が愛する存在は僕のものだ」 「なぜそうなる」  ラトゥリオ様は僕を背中に隠して凄んだ。あの、気持ちは分かりますけど穏便に。これじゃ十五年ぶりの感動の再会が台無しに……僕のせいじゃないけど! 絶対! 「うーん。前半の部分にもう少し反応が欲しいところだね。……レオ」 「はい……」  おずおずと顔を出すと、アントス様は晴れやかに笑っていた。 「ラトゥリオのこと、頼んだよ」  それだけ言って、マントを翻して歩いていく。 「あいつは、まったく……」  額に手を当てて頭痛を堪えるような仕草を見せながらも、黒の王は僕の肩を抱いて微笑んだ。 「あの」 「うん?」 「お見送り……してきていいですか」  あの人は、反対側の世界へ帰ってしまう。 「構わんが、キスは駄目だ。それ以上のこともな」 「気を付けますっ」

ともだちにシェアしよう!