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第4章 元カレとお世継ぎ問題 第12話
僕がだいぶ落ち着いたのを見て、彼は持ってきた本を手渡してくれた。資料室まで取りに行ったあの本だ。
「ありがとうございます……すみません」
「獣医学か。難しいところがあれば、ハーラ先生の友人に聞くといい」
「そうします。……あ、誰かが熱心に読んだ跡がありますね」
ピンクのペンで、線を引いたり書き込みをしたりしてある。
「アリシアの、子供の頃の字だな」
「え!? 十二歳でこれ読んでたんですか」
「絵があるだろう。ドラゴンの」
「あ、このページと……ここと、ここにも。表紙と口絵もドラゴンですね」
「それだけの話だ。毎晩枕元にないと眠れないほど大切にしていたが、南へ行く時に置いていった」
その後は資料室に、というわけか。
「アリシア様って、かわいい方ですね」
「生意気なのはいくつになっても変わらんがな」
「ふふ、かわいくて仕方がないって顔に書いてあります。僕、ちゃんとご挨拶してこないと」
「リナとともにクロスの家に滞在して、到着が遅れたそうだ。アントスを下ろした時に、せめて顔を見せればいいものを」
ん? アントス様は、確かこう言っていた。
『乗せてもらった子が、ここでいいでしょと言わんばかりに僕を下ろして行っちゃった』
で、南門に置き去り。
「アリシア様って、何で来たんですか。ひょっとして例の」
「ドラゴンだ。ピンクのな」
「ああ、それで……」
何というか、自由だ。
「お前に会いたいと言ってな。近いうちに行く、と文は来ていた。アントスは様子を見て次の機会にすると言ったが、いつになるか分からないと押し切られたそうだ。こちらへ着くと、『先日の件で皆のお見舞いに行きます。友人との内緒話もあるので、少し一人にしてください』と、問答無用で置いていかれたと」
「へぇ……」
二人の王に、ゆっくり話す時間をあげるための口実だ。僕が機械室に籠もったのと同じ。ラトゥリオ様もアントス様も、彼女の気遣いを承知の上で軽口を叩いていたんだな。彼女のことを、妹として、妻として、心からかわいく想っているのが感じられる。
「アリシア様と会うのも十五年ぶりなんですか?」
「いや、あいつはたまに寄る。子が生まれてからは間遠になっていたがな。上は八歳、下は四歳だったか」
「はぁ……」
あれで二児の母。いや、変な意味じゃないけど。僕は靴を履き、立って身なりを整えた。
「では」
とにかく会ってみよう。あ、筋肉痛、おさまってる。
「大丈夫か。痛みは」
「泣いたら飛んでったみたいです」
ラトゥリオ様も立ち上がり、僕の襟元をちょっと直してくれた。背伸びをして、ありがとうのキス。……だからっ。そういう濃いのは夜になってから! 舌入れるなーっ!
「ん、ン……はぁっ……。また髪が乱れたじゃないですか……」
「痛みが引いたと聞いてはな。今夜も遠慮はいらないようだ」
「……覚悟はしておきますけど、明日は僕、朝から視察ですからね」
「延期だ。文句はアリシアに言ってくれ」
彼女が来たから、王と護衛官は予定変更せざるを得ない。護衛官の遠出はなくなったから、夜が激しくても構わない。……無茶苦茶だなぁ。僕に対しては駄々っ子になるところも、好きだけど!
「せめて夜までは、いい子にしててください」
「焦らされるのも悪くはない」
お互いの髪を撫でて、クスっと笑う。ほんとはこのまま、朝まで二人きりでいたい。僕たちの間には、そう思えるだけのものがある。うん、元気出た!
「アリシア様は、どちらに?」
「中庭の東屋で茶を飲むと言っていた」
「分かりました。僕一人で行っても?」
「構わんが、いいのか」
「僕も内緒話があるんです」
引き裂かれた恋人たち。その片割れと一緒になった人。僕と似た立場にある彼女と話をしたら、何か見えてくるかもしれない。次の一歩を踏み出せる。
「分かった。あいつが調子に乗らないように、適当なところで迎えにいく」
頷いて、きゅっと手を握ってから、部屋を出た。ラトゥリオ様にはお見通しだろう。黙って見送ってくれる信頼が、嬉しかった。
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