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Prologue 人生ハードモード! 運ゲー&親ガチャに失敗した下級Ωの独自

 Ω《オメガ》【男でも妊娠、出産が可能。長らくバース性差別を受けてきた。近年では地位向上によりβ(ベータ)と同列の人権的扱い、種々の保証制度を受けられる。】と辞書に書かれているが、それはあくまで一般論だ。  Ω(オメガ)というだけで人生ハードモードになる。女性の月経みたいに二、三ヵ月に一度、周期的に発情期(ヒート)を起こすからだ。  通常のΩならα(アルファ)だけをフェロモンで誘い込む。うなじを噛(か)まれて番(つがい)という一生に一度のパートナーとなる。そして子を孕(はら)み、出産する。  だがバース性のカースト最下層である下級Ωは、αだけでなくβや自分と同じΩすらも誘い込むフェロモンを発する確率が高い。老若男女見境なく、血縁関係にある人間すら、ときに誘惑するのだ。  発情期を抑える抑制剤も上級、中級Ωと比べて効きづらい背景から、娼(しょう)婦(ふ)や男娼として生まれたも同然に扱われることが多い。  下級Ωは生まれた瞬間から家族や親族にうとまれ、周りの人間から後ろ指を差される人生を送ることになる。  僕は、両親から殴る・蹴るといった暴行や性的虐待を、運よく受けなかった。その代わりに透明人間として扱われる形で、ネグレクトを受けた。  両親は、頭脳明(めい)晰(せき)、容姿端麗である上級Ωの弟・大(ひろ)翔(と)にだけ、愛情をたっぷりそそいだ。まるで深窓の令嬢みたいに蝶(ちょう)よ花よと甘やかされながら育った。  彼が、いつも羨ましかった。  僕の味方は、同じ下級Ωである父方の祖父と、上級αで恋人の蜜(みつ)だけ。  だけど……祖父は、僕が十八になったとき、老衰で天寿をまっとうし、この世を去った。今となっては彼氏である蜜だけが頼りだ。  二十歳(はたち)になり、初めての発情期が起きたら、彼に身も心も捧(ささ)げる約束をしていた。  それなのに……。  ——約束を破ってごめん。魂の番が見つかったんだ。相手はきみの弟である大翔だよ。おれは大翔と番になった。今までのことは悪い夢だったと思い、すべて忘れてくれ。幸運を祈る。  ——お兄ちゃん、ごめんね。お兄ちゃんの恋人だった蜜さんと番になっちゃって。でも、それが下級Ωに生まれた運命なんだよ。ぼくのことを恨んだりしないでね。  ——律へ。苦労をかけますが、どうか健やかに。  ——あなたを中級Ωとして、この世に産んであげられなかったことを心の底から後悔しています。ですが、今となっては、どうしようもありません。どうか、みんなのために、すべてを受け入れてください。 「蜜、大翔、お父さん、お母さん。こんなのって、いくらなんでも、あんまりだよ……」  わなわなと震える両手で、均等に縦線が引かれた白い紙束を握りしめれば、黒いいくつもの線が荒波のように歪(ゆが)んだ。 「というわけで、ご理解いただけたかな?」  外はカンカン照りだ。今日も四十度を超える酷暑。年代もののクーラーが今にも壊れそうな音を立てて生ぬるい風を送ってくる。  それにもかかわらず全身が冷たい。吹雪の中を歩いているみたいに手足が、かじかんだ。耳鳴りがぐわんぐわんする中、軽快なジャズ音楽が店内で流れている。  アイスコーヒーのグラスに入った氷が、涼し気な音を立てて動いた。 「これで、どういう事情かわかっただろ。律(りつ)くん」  ひゅっと息を飲み込んだ。手もとの走り書きされた文字から、そろそろと目線を上げる。  薄暗い喫茶店の中でも黒いサングラスをかけ、首から腕にかけて龍の入れ墨を入れた男が、紙タバコの紫煙をくゆらせる。 「きみは売(・)ら(・)れ(・)た(・)んだよ。親たちのこさえた借金返済のために。おれたちの経営する店で身体を売って働き続けるしかないんだ。死ぬまでね」  走馬灯を見るかのごとく今朝見た不思議な夢と、今日の昼頃までにあったできごとを思い出す。

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