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第13章 不本意な再会1
その後、僕たちは天音さんのいる神社を後にし、帰路についた。
車の中では妙な沈黙が訪れていた。
わずかに居心地の悪さを感じる。何か話をしなくちゃと焦っていれば、天さんが「あのさ、」と先に口を開いた。「悪かったな、今日はオレの用事につきあわせて」
「いえ、とんでもないです。何度も夢で見た神社に来れたので、よかったです」
「夢?」
「そうです。子どもの頃から見てきた夢。あの神社にみんなで集まって、かくれんぼをするんです。鬼になった子が一番最初に僕を見つけてくれて、うれしいなと思ったところで、いつも目が覚めます」
「……誰が鬼だったか覚えているか?」
赤信号になり、車がゆっくり止まる。
運転席にいる天さんの視線が、助手席にいる僕へと集中する。金色の瞳は真剣さと切実さを帯びたものだった。
嘘をつけば、いっときだけでも天さんのご機嫌はとれるだろう。だけど一度ついたら次から次へと嘘を述べなくてはいけなくなる。
自分にも、相手にも正直であること選択した僕は、いたたまれない気持ちでゆるくかぶりを振った。
「いえ、誰だったのかまでは覚えていません」
「そうか……そんなにおぼろげな記憶なんだな」
残念そうに眉を八の字にする。
その顔つきを目にして胸がきしきしときしむ板のように痛んだ。
「おじいちゃんがかけた魔法、すごく強力なんですね。それに、もとの世界に戻ったとき、記憶をなくすのはあたりまえだと部長さんたちも言っていました」
青信号になり、天さんは顔を正面に向き直した。かたい表情で「わかっているんだ」と、ひとりごとを口にするように、つぶやいた。「おまえの記憶が戻ろうと戻らなかろうと、律が律であることに変わりはないって。たとえ運よく過去のできごとを覚えていても十年間離れていたのは事実だ。その間に、おまえに思い人がいたり、オレ以外のやつと恋人になっていても、まったくおかしくない」
「……確かに恋人がいました。キスをしたことはありますが、それ以上の行為をしたことはありません。弟の魂の番であることが判明するやいなや、一方的に手紙で別れを告げられたんです。『今は、彼と別れたことに未練などありません』と以前も、お伝えしましたよね」
「じゃあ、オレのことは、どう思う?」
「どうとは……?」
なんと返事をするか困り果ててしまう。まごつき、視線をさまよわせている間にも車は進み、後五分で家に着くところまで差しかかっていた。
「人のいい居候や親切な隣人じゃいやだ。おまえに、ちゃんと好かれたい」
「……もちろん天さんのことは好きですよ。最初に会ったときから、すごく、よくしてくれています」
「おまえに好かれたい一心なんだ。ひとりの男として見られたいんだよ」
どうしたら思いを伝えられるだろう?
出会ったときから天さんは魅力的だ。もと恋人である蜜の存在がなければ、もっと早いうちから彼に惚れていたはず。
「本当、ごめん。年甲斐のないことを口にしたな」
珍しく情けない顔をする彼に胸が、きゅうと締めつけられる。
いつの間にか家の駐車場にたどり着き、シートベルトを外し、ドアに手をかける。その手を掴み、引きとめる。
「天さん」
「なっ、なんだ?」
「キス、しませんか」
「へっ?」
すっとんきょうな声を出し、目をぱちくりさせる。
「突然、藪 から棒だな」
図星をつかれ、うっとなる。
でも、ちゃんと言わなければ、この人に何も伝わらない。悲しませるだけ。うやむやになったり、変に誤解されて終わりだ。
「無理させたくて、この話題を振ったわけじゃねえぞ」
「無理なんかじゃないです。ムードもへったくれもないですけど、僕だって、あなたとキスしたいと思ったり、抱きしめ合いたいって思っているのは本当なんです」
羞恥のあまり顔から火が出そうになるくらい熱くなる。
「いつからなのかはわかりません。でも気づいたときには、元彼のことなんか忘れていて、天さんのことばかり考えるようになっていました」
天さんはドアに触れていた手を離し、僕の汗がにじんだ手を軽く握りしめた。
じょじょに彼の整った顔が近づいてくる。金色の瞳にじっと見つめられ、ドキドキと心臓のペースが早くなる。熱い吐息がかかり、「それで……?」と問われる。
「僕だって天さんを好きなんだって気持ちを知ってもらいたい、わかってもらいたいです。だから今ここでキスしませんか……?」
「いいのか? しても」
「ドンと来いです!」
そういえば、天さんはふっと息を漏らして笑った。
額と額がくっつき、僕の高くない鼻と天さんの形のいい鼻がこすれ合う。目を閉じれば、ふわりと唇にやわらかいものが触れる感触がした。
発情期が来ていない状態での口づけは、これが初めてだった。
触れるだけのやさしいキスが終わり、「もっと……」とせがもうとしたら——ガシャン!
地面からちょうど一、二メートル離れた虚空から突如として黒のセダンが現れ、隣へ落ちてきた。状況が飲み込めず、なんだ!? と目を白黒させる。
運転席にいる男の顔を見て心臓が止まるかと思った。
その間にも後部席から人が慌ただしく降りてくる。そして彼らは僕のいる助手席のほうへやってきた。
「お兄ちゃん、元気にしてた!?」
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