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第12章 天狐様にご挨拶2
「さて律の記憶喪失について様子を見るとするかのう」
すると天音様は、まるで医師が患者の具合を見るように僕の状態を観察し始めた。
しばらくすると彼女はあごに手をやり、「うむ」とうなり声をあげ、神妙な顔つきをした。
「どうやらこれはストレスや精神的負担による解離性健忘ではないと見た」
「では、やはり」
天さんが難色を示した表情になる。
「魔法じゃ。おそらく律のじい様が記憶に封印をかけておるのじゃろう」
「魔法ですか……? でも、おじいちゃん……祖父は、すでに他界していますよ。それに僕のいた世界では、魔法は使えないんじゃないですか?」
「魔法をかけた張本人が亡くなった後も効力の続く強力な魔法と見た。こっちの世界にやってきている最中にかけた魔法じゃろう。おまけにこちらでの記憶を失っても、あちらの世界で生きていくのには困ることはないからのう」と天音様は、ため息をついた。「呪いや、まじないの類のように原始的なものだとしたら、解くのは難解極まりないものよ」
「では僕の過去の記憶は永久に戻らないんですか」
疑問に思っていることを口にすると天音様は梅干しを食べたような渋い顔つきをした。
「解く方法を知っている術者が死んどるからのう。ゆえに明日記憶が戻るとも永遠に戻らないとも言えんのじゃよ。残念じゃが妾 がどうこうできる代物ではないじゃろう」
天さんは僕以上にショックを受け、言葉をなくしていた。天音様なら僕の記憶を取り戻せると心から信じていたのだと痛感させられる。
「そう気落ちするな、天。律だって、すべての記憶を失っているわけじゃない。覚えていることがわずかながらにもあるのだから希望を捨てるなよ」
「わかっています」
「気が急くのも痛いほど理解できる。じゃが、ここは律のペースに合わせておやり」
天さんが口をつぐみ、長いまつ毛が影を作ると「さて!」
天音様が口もとに手をあて、ほほほほほと楽しげに笑い声をあげた。
「お主らの結婚の日取りはいつにするかのう? もう、そろそろ律のうなじは噛んでもよい頃合いじゃろ?」
首につけている首輪 を指差される。
げんなりした顔で天さんが首の後ろを掻いた。
「天音さん、律の記憶が戻ってないのに噛むことなんてできませんよ」
「なんじゃお主、記憶さえ戻れば律が、自分を好きになってハッピーエンドだと思っておるのか。思い違いも甚だしいぞ」
「それは……」
なぜか天さんが言葉を詰まらせると、天音さんは目を三日月みたいに細め、のどをくつくつ鳴らした。
「小わっぱだったそなたの横暴さは目に余るものじゃったからのう。今の大人のなりをしたそなたからは考えられんものじゃ。運よく律に昔の記憶が戻ったところで、嫌われるのがオチとは考えておらんのか」
「……どういうことですか?」
言葉の意味が理解できず訊き返したら「さて、どうだか?」と、はぐらかされる。「まだまだ青いのう。おまえたちがいつ番 になるか楽しみじゃ」
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