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第12章 天狐様にご挨拶1
その後、僕は見事に和カフェへ就職できた。
異世界でも調理を三年やってきたことと、Ωとして働きたい意欲があるのを買ってもらったのだ。
回転率が高く朝から晩まで料理を作るので忙しいけど充実した日々を送っている。
スマホの代金を自分で払えるようになり、家に居候させてもらっている家賃代も入れられるようになった。
天さんに借りたぶん——お世話になった今までのぶんのお金を返そうとしたら、「律がこの世界で働いて生きていけるようになるための投資代だから返さなくてもいい」と断られてしまった。
やっぱり自分のお金が手に入ると、人のお金を使うのとわけが違う。余裕が生まれ、今まで以上に食費にかけられる。天さんや、みんなにもっとおいしいものを食べてもらえるよう、いろんな食材を買えるのがうれしい。
「今夜は天さんの好きな油揚げとわかめの味噌汁に千切りキャベツとプチトマトのサラダ、コロッケです」
「ああ、ありがとう。いただきます」
「いただきます」と草太くんたちもご飯の挨拶をして、じゃがいもとひき肉のコロッケにかぶりついた。
衣がサクッと揚がり、中のじゃがいもがほくほくしている。玉ねぎの甘みと胡椒をかけたひき肉のスパイシーな香りが食欲をそそる。
「りっちゃん、すごいおいしいよ」
「ええ、このコロッケ、いくつでも入っちゃうわ」と梅子ちゃんから、お褒めの言葉をもらえた。
「そう言ってもらえるとうれしいな。ありがとう」
「ぼく、おかわり!」
ご飯粒を顔中にくっつけた豆介くんが、空になったお茶碗を出した。それを横目で見ていた常磐くんが「もっと、お茶碗のお米をきれいに食べてください」とツッコミを入れる。
「はい、ついでくるね」
「悪い、オレのぶんも頼んでいいか」
天さんにも頼まれ、僕は「はい、たくさん食べてください」と言い、キッチンの炊飯器のところまで歩いていった。ホカホカのご飯を入れて戻ってくると天さんに話しかけられた。
「今週の土曜は休みか?」
「はい、日曜と月曜に連日入るので、お休みをもらっていますよ」
「おまえに会わせたい方がいるんだ」
「会わせたい人ですか?」
誰だろうと頭にクエスチョンマーク浮かべる。天さんのご両親には、もうすでに会ったし、思いつかないでいると「会えば、おまえの記憶も戻るかもしれねえな」
ますます意味深な言葉を告げられる。
土曜日、天さんの運転する車に乗せてもらい、都内の稲荷神社へ行った。
人がおらず閑散としている場所だ。おみくじなんかを売っている巫女さんや境内をほうきで、はき掃除している神主さんの姿は見あたらない。
でも、きれいに管理が行き届いていて、汚れている様子はない。
不思議と夢の中で遊んでいた神社に似ている気がする。
赤い鳥居をくぐり、本殿へまっすぐ直行する。
お参りをするのかと思っていれば、階段を上って木の扉をノックする。
「天 音 さん、天です。いらっしゃいますか?」
敬語を使い、お仕事モードの天さんを見られるなんて、のんきなことを思っていれば扉が鈍い音を立てて開く。
「ああ、おるぞ。入れ」
そこには神主の姿をした美しい女性が正座していた。
絹糸のような銀髪は腰まであり、大きな金色の瞳をマッチ棒が乗りそうなくらい長いまつ毛が縁取っている。白く透ける肌に赤い唇が似合っている。
「やっと、ここに来たか。来るのがずいぶん遅かったな」
「仕事が立て込んでいたんです。本来であれば、もっと早くに来る予定でした」
どうやら、ふたりは既知の関係らしい。仲よく話している姿をしていれば、女性の目線がこちらへ移る。
「律、久しぶりじゃな。息災だったか?」
「あの……あなたは?」
困惑していれば天さんが「白 狐 天音さんだ」と紹介してくれる。天さんと名字が同じだと気づく。
「オレたち白ぎつねの一族の中でもっとも長生きしている方だ。律たちの世界で九尾のきつねっていう妖怪がいるだろ」
突然妖怪の話を振られ、昔おじいちゃんが話していたきつねの話を思い出す。
「はい。確か悪いことをした妖怪で、栃木県の那須に殺生石という石に姿を変えたんだとか」
「ああ、この方も九尾のきつねだ。だが悪いことはいっさいせず、清く正しく美しくで千年生きている天 狐 っていう、えらいきつねなんだぜ」
「千年も……」
だから天さんたちには一本しか生えてないしっぽが九本もあるのかと腑に落ちる。
「もはや神さまみたいな存在だ。オレたち白ぎつねを見守ってくれている。昔、ここで一緒に遊んだが覚えているか」
「はい、なんとなくですけど……それは少しだけ覚えています」
すると天さんは、ほっとしたように頬をゆるめた。
「ここへ僕を連れてきたのは、どういう意図があってですか?」
「おまえに昔の記憶を取り戻してほしいのと、天音さんに久しぶりに会うから挨拶をしたくてな」
「本題は前者のほうであろう。後者は取ってつけたようなものじゃろうが」
辛辣な意見に天さんは「ぐっ」とうなり声をあげた。
「それはそうだが……」
いつも余裕があり、大人な様子でいることの多い彼が、まるで子どものように言いわけをする姿が新鮮に感じる。
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