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第24話 すれ違い

 令雅(れいが)羽姫(うき)とは、いとこ同士で、それから、それぞれに京城衛と監察使だ。職種は違うにしろ、もしかしたらふたりは、時に協力し合って仕事をこなす仲間だったりしただろうか。  詩鸞(しらん)はそんなことを考える。  お似合いだな、と、ふいにそんな思考が浮かんだ。  なんだか胸がざわついた気がして、そんな自分に詩鸞は驚いた。  「あ…………御無事で、いらしたのですね……よかったです」  我が心を誤魔化すように、詩鸞は努めて微笑してみせた。 「()詩鸞(しらん)です。京城へは監察使の試験を受けに来ていて……理由(わけ)あって、令雅――(おう)将軍の屋敷に、逗留(とうりゅう)させていただいています」 「あら、そうなの。令雅が自分の鳥に乗せるなんて、ずいぶん仲の良いお友達なのかと思ったわ。――まあ、それだったら、あたしも知ってておかしくないんだけど」  その言は、また、ふたりの親しさを詩鸞に強く感じさせた。  いとこだというだけあって、令雅と羽姫とは、どこか面差しが似ているように感じる。それとも、似ているのは雰囲気だろうか。  凛々しく颯爽とした空気を纏う女性が令雅の隣に並ぶ様は、ものすごく、しっくりくるような気がした。  詩鸞は知らず、うつむいていた。 「とにかく、まずは郭壁内に戻ろう」  黙り込む詩鸞の横で、令雅が提案する。 「羽姫、おまえ、怪我は?」 「動けないほどのものはないわ」 「ここから門まで歩けるか? それとも天翔に乗るか?」 「天翔?」  羽姫は一瞬、不思議そうに目を(またた)いた。が、令雅の眼差しが乗騎の霊鳥に向いているのを見て、ああ、と、得心したように頷いた。 「あなたの(はやぶさ)のことね。名前をつけたの? ――って、そんなことはどうでもいいか。乗せてくれるの、その子? あなた以外は嫌がるでしょ。ほら見て、いまも、あたしのこと(にら)んでるわ」  ちいさく苦笑して、羽姫は肩を(すく)めた。 「平気よ。歩ける。――行きましょう」  (うなが)して、ゆっくりとながらも、郭壁を目指して灌木地帯を歩きはじめた。 「詩鸞、歩きで平気か? あんたが天翔に乗ってもいいが」  令雅が訊ねてくる。 「そこまでやわじゃありません。それに、怪我をなさっている方をさしおいて騎乗するなんて、()(たま)れない気持ちになりますから。わたしも歩きます」  そう言い張って、詩鸞も共に歩きはじめた。 *  結局、三人と一羽は、夜も更けきった頃に令雅の屋敷に戻った。  その後しばらく、屋敷の中は、ざわざわとざわめき立っていた。令雅は、羽姫の着替えや食事の用意、傷の手当てなどを、てきぱきと家人に命じていた。 「今日はもう遅い。話は明日にしよう」  まずは休め、と、羽姫のために寝床を準備させていた。  そして同じ頃、詩鸞もまた、貸してもらっている部屋に戻った。  寝台に横になったもののなかなか寝付かれず、寝入ったと思っても眠りは浅くて、結局は曙光が差す頃にわずかにうとうとと微睡(まどろ)んだ程度だった。おかげで、起きたはいいが、頭が重い気がする。 「――おはようございます、詩鸞さま」  蓉香(ようか)がいつものように朝の支度を持って部屋を訪ねてくる。 「おはようございます、蓉香さん。いつもありがとうございます」 「いいえ。詩鸞さまには、うちの旦那さまが、たいへんお世話になっているのですもの」  これくらいは当然とでもいうような朗らかな笑みを見せて、蓉香はいつものように朝食を卓に並べてくれた。 「えっと……今日は、令雅は?」 「旦那さまなら先程お目覚めになって、各所へ羽姫さまのご帰還を報せるための差配をなさってましたよ」  彼女はおっとりと答えた。 「羽姫さまは……令雅のいとこだと、お聞きしました。その……おふたりは、どういう御関係なのでしょう」 「どう、とは?」 「ですから、その」  許婚(いいなずけ)とか恋人とか、そうした特別な関係(なか)だったりはするのだろうか。そう問いを投げようとして、詩鸞は、ふるふる、と、首を横に振った。 「やっぱり、なんでもないです」 「そうですか?」  蓉香が怪訝(けげん)そうに、こと、と、小首を傾げたときだった。 「蓉香、ここにいるか」  ちょうど令雅が部屋に顔を出した。 「居間に茶の用意をしてくれないか。羽姫から話を聞く……じきに佑祥(ゆうしょう)も来ると思うんだが」 「承知しましたわ。三人分のお茶ですね、すぐに。――ああ、詩鸞さまの分も必要でしょうか?」  蓉香に問われて、令雅は、ちら、と、詩鸞を見た。 「いや……」  一瞬の思案の後、彼は首を横に振る。  そんなふうにされて――まるで仲間外れにでもされたような疎外感を覚えて――詩鸞は一瞬、胸がずきりと痛んだ気がした。  「このあと羽姫から話を聞いて、それ次第ではあるが……もしかしたら近日中に太風討伐に出ることになるかもしれん」  令雅は蓉香にそう告げる。 「それなら……わたしも、話を聞いておいたほうがいいのではないですか? だって、討伐に出れば、あなたの呪詛はひどくなるのですし」  令雅が出撃すれば、痣がひどくなったとき、詩鸞の癒しが必要になるだろう。それなら自分も状況を把握しておくべきだ、と、詩鸞は控え目ながらも、そう言い募ってみた。  令雅はまた一瞬、逡巡(しゅんじゅん)するような色を顔に浮かべた。 「いや、やはり……あんたは、いい」 「でも、あなたが神気(じんき)を使うためには、わたしの協力が要るでしょう」 「それは、そうなんだが……あんたを、あまり……」 「なんなんです?」 「いや、その……羽姫に、会わせるべきじゃないような気がして」  令雅にしては珍しい、いやにはっきりしない言い方だった。  なんだそれは、と、詩鸞は思った。 「なんですか、それ?」  衝動のまま、再びそう問いかけていた。 「彼女は……」 「なに? もしかして、あなたの許婚(いいなずけ)とか?」  それならば――治療のために仕方がないとはいえ――頻繁に口づけを交わした相手と正面から会わせるのは気まずいというのも、理解できなくはない。詩鸞がじっと令雅を見ると、相手は橙まじりの金茶の目をまるく(みは)っていた。 「いや、彼女は……」  令雅が言葉を継ぎかけたときだった。 「羽姫さまが戻ったって本当ですか!?」  不意に、叫ぶような声が聞こえてくる。 「あらまあ、うるさい方がご到着みたいねえ」  どうやら報せを受けた令雅の副官が屋敷に飛び込んできたようだった。蓉香が扉を開け放つと、屋敷の中庭を早足で抜け、正殿にある令雅の部屋へと真っ直ぐに向かう佑祥の姿が見えている。 「お待ちの副官どのもご到着のようですし、はやく羽姫さまのところへお戻りになってはいかがですか? わたしは二次試験の準備をしますので」  詩鸞が素っ気なく言うと、令雅は困ったように眉を下げた。が、結局は無言のまま、部屋を後にしていった。 

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