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フェリのプロポーズ大作戦2(フェリ視点)
俺は実家での昼食を断り、一人で食堂へ入った。勝利を噛み締めながら食事をとる。
そしてそのまま宝飾店へと向かって、事前に目をつけていた指輪を用意してもらった。エルのものには緑がかったサファイア、俺のものにはスモーキークォーツ。お互いの瞳の色の石を選んで、予約した。
帰りながら、レストランの予約もできた。来週末のディナー。俺は当直明けで、お互い次の日が休み。
完璧だ。
俺は浮ついた気持ちで帰った。ついでに花も買った。帰宅すると、もうエルは帰ってきていた。俺の格好に少し驚いた顔をして、「どうしたの」と尋ねてくる。
「どうもしない」
「うそ。こんなに立派な服を着て、どこに行ってたんだ」
むう、と目を細めて、訝しげな顔でこちらを見る。いくらかわいいとはいえ、ここで馬鹿正直に「プロポーズの準備」と言ってはならない。
「本当にどうもしない。それより、ほら」
花束を差し出す。エルは「えっ」と驚いた顔をして、俺を見上げた。
「どうしたの、急に」
「そんな気分になったんだ」
俺は浮ついた気分のまま、エルの手に花を握らせた。
「ふうん……?」
エルは何度か首を傾げて、家のコップに花を飾った。
その日の晩、いつも通り同じベッドへ入る。俺がエルを抱きしめると、いつも通り、抱きしめ返された。
「ねえ、フェリ……今日、何してたの?」
「秘密だ」
プロポーズはまだ秘密だ。だけど自分でも、声が甘ったるいのがよく分かった。
エルは「ふーん」とみじろぎをして、こちらへ背中を向ける。追いかけて背後から抱き込むと、エルが俺の手の甲に指を這わせた。
「やましいところがなさそうなのが、逆にあやしい」
「そうか?」
怪しんでいるエルもかわいい。俺は上機嫌になって、エルのつむじへ顎を置いた。エルもくすくす笑いながら、「なんてね」と俺に身体をくっつけてくる。
「なに。プロポーズの準備でもしてきたの?」
ドッ、と心臓が嫌な音を立てた。どうして分かった?
俺の動揺は、エルにもしっかり伝わったらしい。すぐに身体をひっくり返して、俺としっかり目を合わせて、裏返った声をあげた。
「ごめん、本当にそうだった!?」
「……バカ!」
思わず口から罵倒が漏れる。俺の完璧な計画は、がらがらと音を立てて崩れ去っていった。
エルは俺の頭を抱き込んで、撫でてくれる。俺はエルの身体にしがみついて、「お前、本当に、本当に」と唸った。
「どうして……!」
「ごめん、フェリ。本当にごめん」
エルは申し訳なさそうに言っているけど、声色はだいぶ浮ついていた。俺の気も知らないで、呑気なことだ。エルが、こそこそと、耳元で囁く。
「あのね、フェリ。ありがとう」
「ふん。もういい。知らん」
拗ねたふりをして、エルに抱きつく。エルは「ごめんね」と、俺の頭を優しく撫でた。
その心臓がどくどく脈打っているのを聞いて、俺の気持ちも、少しずつ落ち着いていく。エルも、動揺しているらしい。
しばらく胸元に懐いていると、エルが甘い声を出して、俺を呼んだ。
「フェリ。フェリクス。大好き」
俺はもっと甘えるために、エルの鎖骨へ擦り寄った。唇を寄せる。
「エル。なあ、何も言わないでくれ。来週末、ディナーを予約したんだ」
「ん……じゃあ、僕の口を、ふさがないと……」
ちゅー、とエルが唇を尖らせる。俺は「ほんとにな」と唸って、キスをした。そのまま覆いかぶさると、エルは歓声をあげるみたいに笑った。
それから、エルは本当に、プロポーズへ一切触れなかった。
週末になって、当直明け。自宅に帰った俺を出迎えるエルの服に、思わず言葉を失った。
仕立てのいい、紺色のスーツ。ぱりっとした、真新しいシャツ。カフスボタンは、緑色だ。きっと、俺の瞳と同じ色だから、それを選んでくれている。
照れたように笑って、エルは「似合ってる?」と尋ねた。
「きみが誘うようなところって、こういう服がいいかな、と思って……サプライズ」
どうかな? と、エルが俺の手を取る。気づくと、彼は、俺の腕の中に収まっていた。苦しそうに「ちょっと」と文句を言うエルの肩口にあごを置く。頬を、温かい液体が伝っていった。
「エル、好きだ。結婚しよう」
絶対、こんなところで言うことじゃない。俺は当直明けでくたびれた格好だし、ここは自宅だ。
なのに今、言わないといけないと思った。
エルは「もう」と笑って、だけど涙声だった。俺の濡れた頬を、エルの唇がなぞる。
「はい。結婚してください」
俺はエルの身体を抱きしめて、持ち上げた。ベッドへ歩いていって、そっと座らせる。
跪いて、エルの手を取った。夕焼けが差し込んで、エルの身体があたたかな光に包まれて、綺麗だ。
「ありがとう」
これまでの全部が、このたった一言に集約される。
エルはにっこり笑って、俺の手を握った。
「僕の方こそ。……ありがとう。愛してる」
それからしばらくいちゃいちゃして、俺はシャワーを浴びて着替えた。
予約した通りディナーに行って、予定通りに指輪を渡した。エルの薬指にサファイアの指輪を嵌めると、ぴったりで、俺たちは二人揃って泣き出してしまった。本当にバカみたいだと思う。
食事の後は自宅へまっすぐ帰って、二人で風呂に入った。とにかく、離れがたかった。俺は先に風呂から上がって、夜の支度を整える。しばらく経ってから、エルが風呂から出てきた。大きなバスタオルを一枚だけ羽織って、裸だ。
その顔が恥じらうように赤くて、扇情的で、思わず生唾を飲み込む。
「……シようよ」
「気が合うな」
俺は笑って、エルに口付けた。エルも俺の舌を吸って、二人してベッドへ倒れ込む。俺がエルの指輪を撫でると、彼は「嬉しい」と感極まったように言った。
その日のセックスは、もしかしたら一生で一番、気持ちいいやつだったかもしれない。
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