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#65 絶望の果てに差し込む光!〜幾重もの罠に崩れ落ちる二人の前に現れた最後の希望〜
深夜の支社長室に、スリッパの乾いた打撃音が虚しく響き渡った後。
セーラは四つん這いのロッティーを強く抱きしめ、声を上げて泣きじゃくっていた。
「許してくれ……許してくれ、ロッティー……ッ!」
痛みを堪えながらも健気にセーラを受け止めるロッティー。その痛ましくも美しい光景を眺めているうちに、ラビニアの胸にわずかな苛立ちが這い上がってきた。
「ほら、セーラ。お前が必死に欲しがっていたのって、これでしょう?」
ロッティーには画面が見えない絶妙な角度で、例の動画をチラつかせた。セーラはハッと顔を上げ、ロッティーとの抱擁を振りほどくようにして反応した。
その従順で哀れな態度に、ラビニアは喉の奥でくすくすと満足げに笑う。
「……いいわ。約束通り、例の動画は完全に消してあげる」
ラビニアはセーラの目の前で画面をタップし、動画を完全に消去してみせた。
「……ありがとう、ラビニア……っ」
緊張の糸が切れたからか、セーラは思わず憎むべき相手に感謝の言葉を口にしてしまっていた。
「どういたしまして、セーラ」
悪びれもなく笑うラビニアに対し、セーラは痛む心と身体を奮い立たせて立ち上がる。そして、ロッティーの震える手をしっかりと握った。
「……帰ろう、ロッティー」
ボロボロになった二人で、この地獄のような部屋から一刻も早く抜け出そうと背を向けた、その刹那——
「ちょっと待てよ、セーラ」
部屋の隅、闇に溶け込んでいたアーメンガードが、ゆっくりと進み出た。その手には、カメラのレンズを真っ直ぐにこちらへ向けた状態のスマホが握られている。
「今の最高に無様で泣けるやり取り、全部動画で撮らせてもらった。……これを会社の裏サイトにアップしたら、一体どうなるかな?」
「なっ……! 汚いぞ、アーメンガード……ッ!!」
セーラが血走った目で睨みつけると、アーメンガードの中で限界まで溜め込まれていた嫉妬と憎悪のマグマが、ついに爆発した。
「そうさ……俺は汚い男だよッ!! 俺がこんなになったのは、全部お前のせいだ……ッ!!」
アーメンガードは泣いていた。
「こんな動画を、ネットに晒すぐらいで……俺の気が収まるとでも、思ってんのか……ッ!?」
悔しさと嫉妬が胸の中で暴れ回り、言葉を紡ごうとしても、うまく声にならない。
「俺はなぁ……ッ! お前が大事にしてるものをっ……全部、ぶっ壊してやりたいんだよ……ッ!」
アーメンガードは必死で叫ぶ——その姿は、理性を失って発狂する子供のように痛々しかった。
「お前がっ、一番大事にしてる……このロッティーをっ……! お前の目の前で、……めちゃくちゃにしてやる!!」
アーメンガードは床に落ちていたペラペラのスリッパを拾い上げ、涙で霞んだ目でロッティーを睨みつけた。
「スリッパで……3回叩いたくらいで、気が済むと思うなよ……! まずは100叩きの刑だっ……! おい、そいつをこっちへ連れてこいよぉッ!!」
アーメンガードが声を荒げると、黒服が、無言でロッティーの腕を掴もうと踏み出した。
「やめろ!!」
セーラがロッティーを庇うように立ち塞がったが、嫉妬で我を忘れたアーメンガードの暴走はもはや誰にも止められないように見えた。
「——まあまあ、アーメンガード」
間延びした、呆れたような声が響いた。ラビニアだった。
「そんなスリッパで100回も叩いたって、ただの暴力じゃない? 全然面白くないわ。落ち着きなさいよ」
「ラビニア……ッ、だが俺は……!」
「ねえ」
ラビニアはアーメンガードの抗議を遮り、恐怖で固まるセーラとロッティーに向かって、にっこりととんでもない提案を投げかけた。
「じゃあ今度は、『ロッティーがセーラのお尻をスリッパで3回叩く』っていうのはどう?それができたら、今夜はお開きにしてあげる」
「なっ……!?」
絶句する二人に、ラビニアは肩をすくめてみせる。
「そうでもしないと、アーメンガードを宥めることはできないわよ? この人、放っておいたらロッティーが死ぬまで叩きかねないでしょ。大人の落とし所としては、妥当な線じゃない?」
その言葉を聞いた瞬間、セーラは即座にロッティーの前に立ち、背中を向けた。
「わかった! それでいい! だからロッティーには手を出すな!」
セーラはアーメンガードの手からスリッパを奪い取ると、それをロッティーに強く握らせた。
「ロッティー、頼む……。このスリッパで俺のケツを叩いてくれ……!」
「そんな、セーラさん……っ、僕には……できないです……っ!」
「いいからやれ!! 早く!!」
セーラの悲痛な叫びに、ロッティーは言葉を失った。目からは止めどなく涙が溢れ、肩が激しく震える。
嗚咽を漏らしながら、ロッティーが震える腕を振り上げた——その瞬間。
ドバァァァーンッ!!!
支社長室の重厚なドアが、凄まじい音を立てて蹴り破られた。
「警察だ!! 全員動くな!!」
怒号と共に制服の警察官たちが雪崩れ込み、室内を瞬時に制圧する。
「な、何よあんたたち!」
ラビニアが金切り声を上げた直後、警官隊が左右に道を空けた。重厚な足音とともに現れたのは——ラムダス。その背後には、黒服の弁護士団が鉄壁のように控えている。
「そこまでよ、アーメンガード。そしてそこの女装秘書」
「ラ、ラムダス……!? お前、どうしてここに……!」
「この会社は本日付けで、クリスフォード・ホールディングスが完全買収した。今日からここはうちの傘下よ」
ラムダスは冷ややかに言い放ち、容赦なく事実を突きつけた。
「ナフサ隠蔽、不正経理、セーラの不当監禁、そしてSNSボットネットによる大規模サイバーテロ未遂……全部揃ってるわ。ミンチン社長はすでに逮捕済み。あんたたちも、これで終わりよ」
言い逃れの余地など一切なかった。ラビニアとアーメンガードは顔面蒼白になり、膝から崩れ落ちた。
ラムダスはゆっくりとセーラたちの元へ歩み寄り、震えるロッティーを優しく抱き寄せ、床にへたり込んだセーラの手を強く引いて立たせた。
「……言ったでしょ、必ず助けに来るって」
◇
あれから数ヶ月後。
例のパスワードロックは、クリスフォード・ホールディングスの量子コンピューターであっさり解除された。中身の莫大な暗号資産により、セーラは瞬く間に富と地位を奪還。ロッティーとともにクリスフォード・ホールディングスへ移籍し、完全無欠の「スパダリ課長」として華々しく復活を果たした。
「ねえセーラ、今週末、私の部屋に来ない? Netflixの続き、一緒に見ようよ」
オフィスで妖しく微笑むラムダスに、セーラは苦笑した。
「悪い、今週末は……」
「……ふん。またあの子犬ちゃんとデートする気でしょ!?」
「違うって! 必ずお前とも見るから、先に見るなよ〜。じゃあな」
◇
週末、バークシャーの別荘。
使用人たちを引き連れたマリエットが、意味深な笑みを浮かべて退出した後、リビングにはセーラとロッティーだけが残された。
暖炉の火がパチパチと音を立てる中、ロッティーは膝の上のブライス人形をぎゅっと抱きしめていた。
(どうするの、ロッティー? 今夜こそ?)
「な、何を言ってるんだいエミリー、僕たちはそんなんじゃ……」
「おい。さっきから人形相手に何ブツブツ言ってるんだ?」
セーラに怪訝な顔で見下ろされ、ロッティーは慌てて声を上ずらせた。
「あ、あの! この家ってWi-Fiありますか!?」
「Wi-Fi? 玄関のルーターにパスワードのシールが貼ってあるけど……」
言いかけたセーラは、ハッとルーターの裏側を見つめた。
「……おい、ロッティー。お前に預けてあるポルシェの鍵、ちょっと見せろ」
「え? はい……」
差し出された真鍮のキーホルダーの裏側。かつて父親が不器用に打った刻印は、ルーターのパスワードに一致していた。
「……なんだ。これだったんだな」
おわり
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)ペコリ
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