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第33話 死に戻った悪の魔術師は、幸せなキスをした
二人でわんわん泣いているところを兄弟に見つかり、何かあったんじゃないかとキンドを呼ばれ、病人を興奮させるんじゃないとひとしきり怒られ、そして現在。
「俺の魔力の器って、今どうなってんの?」
ずっと聞きたかったこと、全員揃っている今がチャンスとキンドに尋ねる。体のだるさが全然違うから、これまでと同じなわけないと思うんだけど、完治できる方法があるとも思えない。
「器の穴ですか?塞がってますよ。完全に」
「え」
すると予想外の答えに言葉を失う、治癒魔術で修復できないのは自分で試して確認した。一体どうやって?
「魔力量はどうですか?」
「枯渇してるのが当たり前だったから、はっきりとは言えないけど。全盛期よりはかなり少ないな。でも人並み以上はありそう」
「正解です」
キンドの胡散臭い先生顔、久しぶりに見たな。キンドがクロノスに視線を向けると、俺の膝に懐いていたクロノスが顔を上げて言い切った。
「器の時間を戻した!魔力暴走が起こる前まで!」
「……………………は?」
クロノスがニコニコ笑って、褒められ待ちをしている。僕偉いでしょ?いい子いい子して?と顔に書いてある。
いや、今そういう場面じゃねぇだろ。真剣な話を、
こてんと首を傾げるクロノス、
だから……
ちゅ
「いい子だ」
デレデレに溶けたクロノスを膝枕して、全力でよしよししながら話を続ける。
「戻したって、そんなことできるのか?確かに今の俺の魔力量としては、納得できる量ではあるけど」
「え?何事もなかったかのように話続けるじゃん」
「もうこの二人にそれを言っても無駄だよ~」
早々に諦めた双子達、しかし流されずクロノスを諌めるのはこの男
「ってかお前、俺が一人でやったみたいな顔してっけど、お前一人じゃねぇから!全然魔力足んなくて、俺ら全員すっからかんになるまで魔力渡したのなかったことにすんなや!」
「え、チリ?まじか?みんな体調大丈夫か?」
「全然大丈夫!俺たち最低を知ってるから、大抵の苦痛ってなんて事ないんだよね」
「おう、そうか」
さすが地獄を知ってる男たちは面構えが違う。
「リヒトが元気になって本当によかった。キンドに治療法はないって言われた時は、どうしようかと思ったけど」
「治療法なんてありませんよ、魔力の器なんて本来干渉できるようなものではないんです」
「お前スッゲェ魔術師になったんだな!優秀な弟を持って、兄は誇らしいぜ!」
「わっ、イッテェ!頭ボサボサにすんなー!」
戯れ合う兄弟たちを眺めて、呆然とする。
クロノスはいま、灰の塔で晩年まで時空魔術を研究した魔術師としての記憶がある。タイムリープの魔術を完成させたその知識は、きっと俺たちの想像を超える。
加えて兄弟の魔力総量は、きっとこの国の人間をすべて合わせても足りない。ネオチルドレン計画はとんでもない魔術師を爆誕させたものだ。
死に戻りの謎が解けて、俺の命の期限もなくなった。兄弟全員生きて元気に笑ってる。
このエンドは俺がいる世界では成立しないと思っていた。だっておれは死ぬ運命だったから。その運命を覆して、時空さえを捻じ曲げて俺を幸せにしてくれたクロノス、そして兄弟たち。
「お前ら!愛してるぜ!」
これこそ、最高のハッピーエンド
完璧なエンディングだ!
――――――――――
「お~!2年ぶりの我が家」
俺が死にかけたあの日から半年ばかり、俺たちはやっと我が家に帰ってきた。
俺の主治医キンドはかなり厳しく、全快するまでは家に返さないとなかなか退院の許可が降りなかった。
俺からしたら全然元気なんだけど、兄弟も全く俺の言葉を信用してくれないので味方はおらず。俺が死ぬつもりで家を出てから約2年、久方ぶりの帰郷となった。
「クロノス、なに怒ってんだよ」
「……待っててって、いったのに」
「だってお前仕事じゃん。エンヤとスイが迎えに来てくれるって言うんだから、甘えるだろ」
「俺が、迎えに行きたかったのに」
今日クロノスは出勤日だった。一人で帰れるって言ったのだが、またしても兄弟に止められエンヤ・スイ夫夫が送ってくれた。
家の前で待っていたクロノスをみて、エンヤとスイは気を使って帰って行った。申し訳ない。
「久しぶりの我が家だぞ?怒ってたらもったいなくね?」
「リヒト、誤魔化そうとしてる」
「本当のことだろ、ほら」
唇の横、人差し指でトントン叩く。
クロノスは待てのできるいい子だった。というかいい子すぎた。
全快してないのに体に負担がかかる事はできないと、俺の誘いはことごとく拒否され今に至る。
「俺だって、ずっと待てされてたんだ。1日でも早く家に帰りたいって、思うだろ」
「俺だってそうだよ」
「な、ほら?……ぁっ」
お預けが解除された犬みたいに、クロノスが唇にむしゃぶりついてくる。大きい舌が口内を暴れ回って、飲みきれなかった唾液が溢れて滴り落ちる。
「ぁ、ふっ」
「リヒト……」
「んちゅ」
噛み付く様なキスが、慈しむ様なそれに変わる。舌を絡められて、上顎を擦られると快感に声が漏れる。
「ねぇ、飲んで」
「……ん、んく、」
流し込まれる唾液を飲み干すと信じられないくらい甘い、そのやけるような甘さが体を熱くさせる。
「ねぇ、リヒト」
「……ん?」
「気持ちい顔可愛いね?……俺もすっごくしたいけど、その前に、……こっち来て」
ボーとした頭はうまく働かない。名前を呼ばれて手を引かれる。寝室に行くのかと思ったら、来た道を引き返し玄関から外に出る様だ。
「クロノス?」
「ねぇリヒト、今日が何の日か、覚えてる?」
「……え?」
今日?体調が崩してる期間が長すぎて、正直季節の感覚なんてどこかに行ってしまった。でも最近外にでられる様になって、だんだん気温が上がって過ごしやすくなってきた様な……。
「……もしかして」
「リヒト!見てて!」
クロノスが頭上に手のひらを挙げた。
その瞬間、
「うわぁ」
空に、光のカーテンがかかった。
空一面、数多の色を纏った光が、夜の闇を裂いた。
そうか、今日は
『新季祭に光のアートの下で結ばれたカップルは一生幸せになれる』
「リヒト」
クロノスが俺の手を握り、小さな箱を手のひらに置いた。
手触りのいい生地に包まれた、綺麗な箱。そっと開けてみる。
「……綺麗」
そこには真紅の石が嵌った、上品なピアスがあった。
「俺はガキで、失敗してばっかりで、リヒトにいっぱい迷惑かけてきたけど、」
「……うん」
「リヒトを好きな気持ちだけは、いつだって変わらない」
「う、ん」
「時を超えて何度やり直したって、おれはリヒトに恋をするよ」
「あぁ」
「だから俺とずっと一緒にいてほしい、
――――結婚して下さい」
「あぁ!喜んで!」
勢いよくクロノスに抱きつく。大事なピアスが飛んでいきそうになって2人で慌てて、小さな箱を掴む。バカみたいだって、2人で顔を見合わせて笑う。
あぁ、なんて幸せな夜だろう。
生まれ変わったらプロポーズをしてくれって、死ぬ間際に俺は祈った。
お前は、いつも俺に幸せをくれる。
俺の祈りを叶えてくれる。
そんなやつ、好きにならないわけないだろ?
「リヒト!絶対幸せにするから!」
俺を抱き上げて、くるくるまわりながらクロノスが言った。
抱き上げられたまま、クロノスの頬を掴み強引にキスをする。
「それは、俺のセリフだ!」
俺は、そのために死に戻ったんだから!
なぁ、そうだろ?
光り輝く空の下、死に戻った悪の魔術師は幸せなキスをした。
稀代の悪の魔術師は、二度目の人生をハッピーエンドで終わらせたい。完
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