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第12話
「こう、きょう、あらたせんせといっしょにおふろはいる!」
カレーを食べ終わった頃、それまで黙々と食べていた洸が、突然決心したように声を上げた。
「……お風呂?」
「いや、洸、それは無理やわ。おとうと弦と洸、三人で入ろ」
「なんで? くうちゃんはいいのに、あらたせんせはあかんの?」
いや、もう洸、今にも泣き出しそうやん。
蜷川はあくまで俺の友達として来てるからまだええけど、新はそうはいかん。なんやかんや言うても現職の担任の先生や。園で「新先生とお風呂入った!」なんて無邪気に言いふらされた日には、それこそ大問題になりかねん。
「あらたせんせい……おんなのこなん?」
新も俺も、なんと返答すべきか言いあぐねていたら、今度は恐る恐る弦が口を開いた。
その斜め上の発想に、思わず二人で目を合わせて「ぶふっ」と吹き出してしまった。
「……ふふっ、新先生は女の子じゃないねんけどな。……どうしましょっか、元宮さん?」
新は笑い混じりに俺にパスを出してきた。困ったように眉を下げているが、その瞳には洸の願いを叶えてやりたいという気持ちも見て取れる。
「でも、もしバレたら、それなりに園で気まずいやろ?」
「……じゃあ、元宮さんの濡れてもいい服、借りてもいいですか? 僕、中で二人のお風呂のお手伝いをします」
「うわぁ、ごめんな? 何から何まで……助かるわ」
「その間に、お片付けお願いしますね」
「勿論です。仰せのままに」
俺がふざけて敬礼すると、新は満足そうに笑って、子供たちを連れて脱衣所へと向かった。
「うわぁ! 見事にカレー地獄やね」
脱衣所から、黄色く染まった服を脱がせながら笑っている新の声が聞こえてくる。
俺はクローゼットから、なるべく濡れても気持ち悪くなさそうなTシャツと短パンを選んで持って行った。
「新、これ使って……って、うわ。派手にやられたな」
脱衣所のドアを少し開けると、新が苦笑いしながら、真っ黄色になった花柄のエプロンをつまんで見せてきた。
「元宮さん、見てくださいこれ」
「こうがおくちふいたん!」
「おれもあらたせんせいで、ふいたった!」
自慢げに胸を張る二人の姿に、新は「拭いたった、じゃないやろー」と優しく嗜めている。
……いや、ほんま、新がエプロンをつけてたのはナイスプレーすぎる。それがなかったら、自前の服が再起不能になっていたところや。
新は俺が渡したTシャツに手早く着替えると、袖を捲り上げて風呂場へと消えていった。
バシャバシャと景気のいい水音と、楽しげな声が響き始める。
ダイニングに戻り、俺は片付けを始める。
蜷川の時は、一緒に裸でワーワー騒ぐような賑やかさやったけど、新はこうして一歩引いて、でも確実に子供たちの心に寄り添ってくれる。
昨日、一昨日まで、この家はあんなに暗くて静かやったのに。
新と蜷川。
性格もアプローチも正反対の二人が、俺と子供たちの止まっていた時間を、それぞれのやり方で動かしてくれているのが分かった。
……それにしても「女の子」か。
確かに新の顔立ちは綺麗やし、子供好きで、お世話もプロや。料理の手際もいいし、尚且つ美味い。そして、優しい。
「奥さんになったら、いうことなしやな……」
なんて、自分に都合のいいことばかりを考えてしまう。
今の俺にとって、新が差し伸べてくれる手はあまりに温かく、理想的すぎて。
「……何考えてんねん。あほか、俺は」
俺は慌てて皿を拭く手を早めた。キュッキュと鳴る皿の音が、静まり返ったキッチンに不自然に響く。
風呂場からは、相変わらず楽しそうな三人の声が聞こえてくる。
俺は洗い終えた皿を棚に片付け、新の汚れたエプロンを洗って固く絞って干した。
「……よし」
気合を入れ直して、俺は風呂上がりの子供たちのためにパジャマを用意し始めた。
今はただ、この日常が少しでも長く続くように。
彼に求めすぎないように、でも、突き放しすぎないように。それだけはちゃんと見極めなあかん。
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