18 / 54

第18話

「ただいまぁ。おっ、蜷川どうしたん?」 玄関のドアを開けると、リビングの床に蜷川が少しムスッとした顔で体育座りして待っていた。 怒っている理由は、聞かずとも多分これやな。 「ごめん、一声かけていけば良かったな」 「ほんまに! 弦くんと洸くんが『おとうにおやすみって言う!』って探し回ってましたよ!」 大袈裟にほっぺを膨らませて、子供みたいに怒っている。ほんまに可愛いやつや。 「ごめん、今から言うてくるわ」 「二人とも、もう寝ました! 今日あんだけ暴れてたし、週末やし、よっぽど疲れてたみたいで」 「……そっか。帰ってきてから、あの子らに触れてなかったから、ぎゅうしてもらいたかってんけどな」 「……ぎゅうですか?」 「うん、ぎゅう」 ふふっと笑って、リビングに向かう。まぁ、寝る前にベッドにお邪魔させてもらって、こっちからぎゅうさせてもらおうかな……。 「元宮さん?」 「ん?」 さっきから黙っていた蜷川に呼ばれて振り返る。 ちょっと待ってくれ。椅子が足りひんかった時と同じ顔して、両手広げて待ってるやん。 「……長男のぎゅうじゃ、ダメですか?」 ふふっと悪戯っぽく笑って、俺が来るのを待っている。これはヤバい。顔中に熱が集まってくるのがわかる。 「……いや、長男は弦やし」 照れた顔を見られないように、適当にテーブルにあったまだ片付けていなかったコップを持って、キッチンへと逃げた。 どうしよう、気まずすぎる。 冗談なんやから、冗談っぽく抱きついて、すぐ終わらせた方が良かったかな? どんな顔して戻ればええんやろ。 「……ぎゅう」 「……待って、ほんまあかんて、蜷川」 後ろから急に抱きしめられ、お腹のあたりに蜷川の逞しい腕が回される。 俺の心臓は今にも破裂しそうなほど、うるさく音を立ててる。恥ずかしい。こんなん、俺が蜷川を意識してることが一発でバレてまう。 「……たまにはいいと思いますよ? 人の温もりって安心するじゃないですか」 まぁ、そうなんやけど……。今は安心どころか、動揺がすごすぎる。 無理に引き剥がすのも違うし、一体どうすればええねん。 「……ありがとう。癒やされた。やから、もう、な?」 少し遠慮気味に蜷川の腕から身体を離し、振り返ると、至近距離で目が合う。 あかん、これはまずい……かも。 「……今日、お泊まりの用意してきたんですけど、泊まってもいいですか?」 え、それはどういう意味で……? いや、ただ帰るのが面倒くさいから、って受け取ってええんよな? 「……うん、もちろん。二人も朝から蜷川がおったら喜ぶわ」 「ふふっ、良かった。シャワー、先浴びてきますね?」 ニコッと笑って俺から離れる蜷川の背中を、ただ呆然と見送る。 シャワー先に浴びる!? お泊まり!? え、これは何か期待してええやつなんか!? ……いや、ちゃうやん。 あいつはただの優しさで、疲れてる俺に接してくれてるだけや。俺だけが勝手に勘違いして、自意識過剰で自爆してどうすんねん。 「……とりあえず、コップ洗お」 新の言葉に揺さぶられ、今度は蜷川の行動に引っ掻き回される。 バタバタと音が鳴り響く胸を押さえつけながら、俺は冷たい水で食器を洗った。

ともだちにシェアしよう!