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第22話

「おはようございます! 元宮さん!」 「おとうおはよー!」 「おとう! きょうピクピックいくでー」 「ピクピックいくでー!」 「元宮さーん! ピクピックですよー!」 「ふふっ、なんやねん、ピクピックって」 狭いソファに身体を縮こまらせて寝ていたから、体中が少し痛い。そんな俺を起こすように、朝から三兄弟が騒いでいる。 急に洸が俺のお腹の上にダイブしてきて、「おふっ」と声が出た。 あれ? なんかええ匂いがするな。 うっすらと目を開けると、すぐ目の前で空が俺を覗き込んでいた。その空の背中には、すでにおぶってもらっている弦がいて、二人してニヤニヤと俺の顔を見下ろしている。 なんや、朝から最高に幸せな景色やな……。 「ほら、元宮さん。ニヤついてないで、朝ごはん食べますよ?」 「え? 作ってくれたん?」 「……先に言うときますけど、俺、料理苦手ですからね?」 「大丈夫。空が作ってくれたもんなら、なんでも食べるわ」 まだ俺の胸の上で「ピクピック!」とはしゃいでいる洸をぎゅっと抱きしめ、首元に顔を埋める。うわ、まだほんのり赤ちゃんの匂いがするやん。可愛くて仕方ない。 「洸、ピクニック、お弁当にするか? それともハッピーセット?」 「ハッピーセット!!」 「そうか。弦も絶対ハッピーセットやな?」 洸を抱き上げ、キッチンに向かった空の後ろを追う。 どっちがいいか聞いた途端、弦も、そして義理の長男までが「ハッピーセット!!」と目をキラキラさせてハモってきた。……絶対に空は、ビッグマックじゃないと足りんやろ。 ひとまず洸を椅子に座らせて、洗面所で顔を洗う。 すっきりしてリビングに戻ってくると、テーブルの上には、なんとも可愛らしく裏側が焦げて、胡椒がこれでもかとブチ撒かれた目玉焼きが置いてあった。 「……俺、料理苦手ですからね?」 自信なさげに眉を下げてもう一度言う空に、俺は小さく笑った。 「ふふっ、空の作ってくれたもんなら何でも食べるって言うたやろ?」 見ると、一番最初に焼いたであろう、ひときわ焦げの強い目玉焼きが空の席の前に置いてある。俺は迷わず自分の少し控えめなお焦げの目玉焼きとそれを交換して、自分の前に置く。 「あれ? 弦と洸のやつ、めちゃめちゃ上手いやん」 「さすがに二回予行演習しましたから。ちょっとお湯を入れて蒸したら、なんとか形になって……」 「流石やな。ん、これ、意外とスパイシーで美味いで? これだけ美味かったら、次は完璧にできるな」 「……次?……お口に合って良かったです」 ん?あれ? 俺、何か変なこと言うたやろうか。俺なりに褒めたつもりやってんけど。 「弦、洸、美味しい?」 少し控えめに焼かれたトーストの上に目玉焼きとマヨネーズを乗せて、二人は豪快にかぶりついている。こないだまでは小さく切ってあげんと食べられへんかったのに、いつの間にかこんなワイルドに食べられるようになってんなぁ。 「おいしい! おれ、くうちゃんのつくったごはんすき!」 「こうは、あらたせんせがすき!」 「ははっ、洸くんそれ、ただの告白やから」 「今度、新先生の前でそれ言うてみ? めっちゃ喜ぶわ」 空は少し盛り返したように微笑んで、「弦くん、ありがとうね」と弦の頭を優しく撫で、洸には「食べてくれてありがとうね」とふっくらした頬を撫でている。 ……俺も一応、一番に褒めたんやけどな。 「次は完璧」なんて言い方、今回は失敗って意味に取られてもうたかな……。 俺が一人で反省していると、空が少しだけトーンを落として口を開いた。 「……元宮さんも、ありがとうございます」 控えめな笑顔と、どこか耳に残る優しい声。 その一言を伝えられた瞬間、俺の沈みかけていた気分は一瞬で跳ね上がった。嫌われたかも、なんて勝手に落ち込んでいただけに、嬉しさが半端ない。 「……ん!」 調子に乗った俺は、冗談交じりに少し笑いながら、自分の頭を空の方へ軽く突き出す。 ふざけた延長ならワンチャン、俺も撫でてもらえるやろ。 それを見た空は、伸ばしかけた手を一瞬ピタリと止め、何かを考えた後……俺の頬を優しく撫でた。 大きくて柔らかい手のひらの感触が、肌に伝わる。 「……!」 息が止まった。 これは、あかん。あかんやつや! かんっぺきに、恋に落ちたやつや、これ……!! トクトクと心臓がなってる。顔に一気に血が上るのが自分でも分かった。 「くうちゃん、おれもほっぺしてー!」 「……うん、ほっぺしよか」 弦に呼ばれて我に返った空が、少し動揺を隠すように「うん」と頷いて、弦の頬を優しく撫でている。 その様子を、俺はまだ顔を真っ赤にしたまま、デレデレとした締まりのない表情で見つめていた。すると、撫でられている弦もまた、なんとも言えないデレデレとした、どうしようもない顔をしている。 ……待て、その顔。俺にそっくりやん! 「ふふっ……二人とも、おんなじ顔ですね」 空が俺の様子を横目でチラリと見ながら、堪えきれずに吹き出した。 楽しそうに、でもどこか愛おしそうに細められた空の瞳を見て、俺は確信した。 ……これ、確実に俺の気持ち、バレてんな。 「こう、これ、もういっこたべたい!」 洸の無邪気なリクエストに、はっと我に返る。 あっぶなー!あかんあかん!心の中で自分にそう言い聞かせて、小さく頭を振った。 今ここが、子供たちの目の前やということを完全に忘れかけてたわ。俺は二人のお父さんなんやから、こんなところでデレデレしてんと、しっかりせなあかん。 「もう一個な?」 空気を変えるように、張り切って新しく目玉焼きを作ったものの、空に笑われるくらいの大失敗をしてしまい、結局また空の手を煩わせるような結果になってしまった。

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