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第24話

それから数日が経ち、俺は営業部へと異動になった。 以前の部署に比べて時間の余裕が増えたことで、生活のペースもだいぶ落ち着いてきた。あの頃のように、新や空に家庭のことで頼り切りになることも自然と少なくなっていった。 二人とも、近づきすぎず、離れすぎず、絶妙な距離感で俺たちに接してくれている。 一時期は俺をあれほど激しく動揺させた、まるで好意を持ってくれているかのような二人の言動も、今では家族の言葉として、素直に温かく受け取れるようになっていた。 でも相変わらず、俺たちは仲のいい家族で。いつの間にか、リビングのコルクボードは賑やかになっていた。 あの空との写真と同じように、新を交えた家族写真が増え、さらには空と新、そして俺たち三人の五人が全員揃った写真も加わった。 ある日、いつの間にか撮られていた俺と弦と洸が三人で寄り添って雑魚寝している写真が貼られていたり、俺以外の四人がカメラの画面いっぱいに仲睦まじくふざけ合っているドアップの写真が貼られていた時には、流石にちょっと寂しくなったりもしたけれど。 そんな、穏やかで幸せな毎日は、ある日突然、一本のメールによって無惨に崩されることになった。 画面に表示されたのは、奥さんの名前。 そこには短く、「洸に会いたい」とだけ、冷淡なメッセージが添えられていた。 それを読んだ瞬間、頭が一気に冷えていくのが分かった。 ……なんで、洸だけ? あんなにお母さんっ子で、いつでも自分についてまわってた弦のことは無視して、なんで洸だけ? いや……そりゃそうか。洸の顔は自分にそっくりや。おまけに大人しくて、聞き分けのいい、手のかからない子や。外見を何よりも気にして、オシャレが大好きなあいつのことや。自分の「飾り物」にするには、文句なしの都合のええ存在なんやろ。 「……ふざけんなよ」 お前が出ていって、家のことも子供のことも全部放り出して金だけもっておらんようになった間。俺が、そして新や空が、周りのみんなが……どれだけの思いでこの数ヶ月間を繋いできたと思ってんねん。 お前がおらんくて、寂しくて悲しそうに泣いていたこの子らを、毎日笑顔にするために、俺らがどれだけ必死にこの場所を守ってきたと思ってんねん。 「……会わせるわけないやろ」 今まで感じたことのない怒りと悔しさが、込み上げてくる。 考えるより先に身体が動いていた。弦と洸は2人で大人しくテレビに夢中になっている。その姿を確認し、階段を駆け上がり、寝室に飛び込む。そして、彼女が出ていってから一度も開けていなかったクローゼットの扉を、勢いよく引っ張り開けた。 奥の棚にしまってあった、少し大きめの白いボックス。 俺と彼女の、二人の思い出が詰まったそのボックスの蓋をあける。 その中から彼女が置いていった、四つ折りにされた離婚届を引っ張り出した。 逃げていた現実を思い出し、震える指先で、四つ折りの紙を広げる。 そこには、見慣れた綺麗な筆跡で、すでに彼女の署名と捺印がされていた。 残っているのは、俺の欄だけ。 この子たちの日常を、笑顔を、新や空や秀太が一緒に守ってくれたこの大切な温もりを、お前の都合で二度と掻き乱されてたまるか。 俺は引き出しからペンを取り出すと、溢れそうになる涙を堪え、怒りでどうにかなってしまいそうな心を無理やり抑えつけながら、自分の名前を書き殴った。

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