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第25話

離婚届に自分の名前を書き終わった後はっと小さく息を吐き、少しだけ冷静になってクローゼットの奥を見つめた。 こんな顔のまま下におりたら、弦も洸も怖がらせてしまう。 それに……。 冷静になって思い返せば、彼女は最初からこんな人じゃなかった。 ここにいた時は、ちゃんと弦のことも洸のことも、目一杯愛してくれていた。だからこそ、弦はあんなにお母さんっ子やったんや。 全部が彼女のせいなわけがない。彼女だけが悪いんじゃない。 俺だって、決してできた父親じゃなかった。 「……俺がこんなに動揺してどうすんねん」 今さら母親面して、なんて、怒りに任せて彼女の愛情まで否定しようとした自分が恥ずかしかった。 こういう時こそ、父親の俺がどっしり構えて、冷静でおらなあかん。そう自分に言い聞かせながら、荒くなった呼吸を整えようとクローゼットの棚に手をかけた。 「……ここにあったんか」 いつの日にか、空が俺のために作ってくれた「伝説の剣」。 俺に見つけられることもなく、ずっとこのクローゼットの中で、静かに眠ってたんやな。 そっとそれを手に取る。金の色紙が丁寧に貼られた持ち手の部分。そこに、空の綺麗な字で「幸せになる呪文」と書かれた紙が貼られていた。 ふふっと思わず笑い、その紙をペラッと持ち上げる。 『みんな元宮さんが大好きです』 ただ、それだけ。 そんな、簡単なようで、今の俺にとっては決して簡単じゃない優しい言葉が目に飛び込んできた瞬間、堰を切ったように涙が溢れて止まらなくなった。 俺も、大好きや。 弦も、洸も、新も、空も。みんな、俺にとってかけがえのない、大切な人たち。彼女が消えた後のこの場所には、こんなにも愛が溢れてる。 ボタボタと涙が落ちて、情けなくて嬉しくて仕方ない。 彼女への怒りや、洸を奪われるかもしれない恐怖で張り裂けそうだった胸の痛みが、空のくれた呪文によって、切ないほどの恋しさに変わっていく。 空に会いたい。 今すぐに、空に会いたい。

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