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第26話
ハラハラと桜が舞っていたあの春から、数ヶ月。
季節は巡り、今はすっかり秋。それも、どこか肌寒さを感じる「秋風の頃」だ。
あの時と同じ、おしゃれなカフェのテラス席。
だけど今の俺は、かっちりしたスーツの上から薄手のコートを羽織っている。吹き抜ける風が暖かいようで少し肌寒い。
「どうしたん?もとちゃんから、パニーニ食べたいやなんて珍しいやん」
目の前では、相変わらず仕立てのいいジャケットをスマートに着こなした秀太が、澄んだ秋空を見上げながら、温かいカプチーノのカップを両手で包み込んでいる。
そしてその横にはレアキャラの元同僚、現社長補佐の優人が久々の再会ににこにこと機嫌よくしている。
「……今気づいたんやけど、もしかして営業にスムーズに行けたのって優人のおかげ?」
「……今頃気づいたん?俺が社長の後ろで糸引っ張ってるからな?」
優人がまるで悪い魔導士のように、操り人形を操っているかのような動きをしながら笑っている。なにそれ、なんか漫画で見た事あるわ。
「いや、ほんま。社長の息子やと知らんで仲良くしといて良かった」
「言わんほうが人を選別できるからな?誰が上に立つべき人間か手に取るようにわかる。……もとちゃんも次期やで?」
「……俺は当分今のままでええよ」
笑う優人に俺は遠慮して手を振る。だが、ここからが本題や。俺は少し声を落とした。
「それより、聞いてほしい事がある。……大事件が起こった」
「なに?ストーカー事件の進展?」
「いや、それは俺の中では解決してんねん。もう後ろ、つけられてないしな?」
そう、もうこの事は俺の中で犯人の目星はついてる。もう愛おしいとすら思えるくらいに。
「……実は、奥さんが動き出した。多分やけど洸だけ引き取るつもりでおる」
「え?でも奥さん療養中やろ?そんな精神不安定な状況じゃ無理やろ?」
秀太が心配そうに眉をひそめる。俺は頭を掻きながら白状した。
「……ごめん、俺嘘ついてた。ほんまは奥さんめっちゃめちゃ元気。今頃大都会で高いヒールとピッチピチのミニスカート履いてキャリアウーマンしてるわ」
「……やろな?あのモデルみたいな美人の奥さんが地味な服着て療養やなんて、信じられへんかったもん」
何度かうちの奥さんと会った事のある優人が、大口を開けて笑っている。
すぐに会いたいと願った空や新よりも前に秀太たちに話したかったのは、感情的になるより、客観的に見て欲しかったからや。
今日は運良く優人が来てくれて、笑い飛ばしてくれて、ちょっと気が楽になった自分がおる。
「奥さん、ただの『ないものねだり』やと思うよ。ふとした瞬間に、自分が手放した『母親』っていうブランドが恋しくなっただけ。元ちゃんが堂々としてたらええ話よ」
優人の切れる男としての言葉と、秀太の「もとちゃんにはもう、一人で抱え込まんでもいい家族がおるやん」という優しい言葉に、頭がすっと冷えていく。
俺には、もう、大切にしたい新しい家族がいる。
「よし、決めた。俺、ちゃんと奥さんに連絡するわ」
俺はスマホを取り出し、彼女へ「子供たちに会わせる」とだけ、冷静に短い返信を打った。
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