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第49話

元宮さんとサプライズの計画を立てた数日後。洸くんの引越し祝いを翌日に控えた夕方、俺のスマホに空からメッセージが届いた。 『明日の買い出し、量多くて大変やから手伝いに来て!元宮さんは休日出勤で、弦くんは久々に洸くんに会えるのが嬉しすぎて昨日の夜に飲み過ぎたから、二日酔いでまだダウンしてる』 「……ん? 誰から?」 俺の隣に座って一緒に映画を観ていた洸くんが、不思議そうに首を傾げる。 ほんま、元宮さんといい空といい、いつでもタイミングが悪すぎるんやから。今回に限っては弦くんもや。……っていうか、俺と洸くんが当たり前みたいに一緒におりすぎなんか。 「なんか……今度保育園でイベントあるんやけど、買い出しに行ってくれてる保育士さんが一人急病で大変みたいで。あとで、ちょっとだけ手伝いに行ってあげてええかな?」 「え、新先生の所の保育士さんって全員女の子やろ? すぐに行ってあげて」 洸くんが優しすぎて、逆に嘘をついてしまったことに心が痛む。ほんまごめんな。このお詫びは、明日全力で返すから。 「2時間もあれば帰って来れると思うから。映画の感想、後で聞かせて?」 「ううん、違う映画見て待ってる。この続きは、帰って来てから一緒にみよ?」 どこまでも優しい洸くんに、胸がキュンとする。ほんまは強く抱きしめたい。でも、今はこの緊急ミッションを素早く終わらせる方が先や。 ◇ 俺と空は駅前のスーパーで合流し、カゴいっぱいに食材を詰め込んだ。お肉に野菜、それから洸くんの好きな少し弱めのお酒。弦くんには、二日酔いの罰として炭酸水だけを買ってあげた。 「なぁ、ちょっと重いし、そこの公園で休憩せぇへん?」 大きなビニール袋を両手に下げた空が、ふいにそう言った。 「うん、そうしよか」 夕暮れ時の公園。ベンチに二人で並んで座り、缶コーヒーを開ける。 この空気、なんだかもの凄く懐かしい。でも、改めて二人きりで話すなんて、20年来の付き合いもあるのに初めてかもしれんな。 「……なぁ、新」 「ん?」 「元宮さんから、ちょびっとだけ聞いてんけど」 「ふふっ、ちょびっと?」 さぁ、元宮さんは空にどこまで話したんかな。でも、彼の性格はもう知り尽くしてるから。 「……洸くんが新のこと好きやから、新の方にちょっとでも可能性がありそうなら、お尻押したげてって言われた」 「お尻!?」 思わずコーヒーを吹きそうになりながら、空に聞き返す。彼らしいな。あくまでも俺が「洸くんのことが好き」と伝えたことは伏せて、家族で応援してくれようとしてんねんな。それにしても、お尻って。背中じゃないところが、元宮さんらしくて可愛らしい。 「あの人らしいやろ。ほんま、あの人は変わらへん」 空もきちんと元宮さんと連れ添ってきたから、きっと、彼が言いたいこともなんとなく察してるんやろな。 「……ほんま変わらへん。誰よりも人の痛みに敏感で、……ずっと優しくて、可愛い人」 口に出してしまって、少し後悔する。空がこんな言葉を聞いたら、嫌な気持ちになるやろうか。 「……新も好きやったんやろ? 元宮さんのこと。……初めはな、新のことすっごい嫌やってん。俺の方がもっと前から元宮さんのこと好きやったのにって。急に現れて、俺よりも先に家族に溶け込んでる。新には元宮さんの求めてる理想が全て詰まってて、こんな人に俺が勝てる訳ないやろって。……でもさ、新側からは俺に対する悪意みたいなのが全然伝わってこんくて。ずっと過ごしていくうちに、あぁ……愛を擬人化したら、この人の形になるんやろうなって思うようになった」 「……それは流石に褒めすぎやろ」 空の、少しふざけたような、でも本気の気持ちが妙に照れ臭い。あの頃の俺は、ただ大好きな家族の側にいるためなら、なんだって偽れた気がする。それを今更正直に伝えたところで何も生まれへんから、このまま「愛の擬人化」っていう、少し恥ずかしいキャラ設定のままでもええか。 「まぁ……俺も褒めすぎたかなとは思った」 空はニシシと意地悪そうに笑ったあと、ふっと優しい、大人の男の顔になった。 「……元宮さんは『洸くんが』って言うてたけど、新も洸くんのこと好きやろ?」 さすがやなぁ、と思う。いつもどこかで家族を気にかけて、些細な変化もすぐに気づく。そして自分の事のように悲しみ、喜べる人。空も大概愛の人やと思うけどな 「……まぁ、嘘ついても仕方ないなとは思う」 「やろ!? 俺の前では嘘はつけへんで?」 空は自慢げに言うてるけど、前に空と会った時は、まだ今みたいな気持ちにはなってへんかったんやけどな。でも、自分でそう思い込んでただけで、空はもう見破ってたんやろな。 「……俺は明日がチャンスやと思う」 「へ?」 「告白やん! まだ、年齢がぁ……とか、家族としてぇ……とかグジグジ考えて言えてへんねやろ? そんなん老後なんて、洸くんに迷惑かけんように、代わりに俺がみたる! 元宮さんと3人で老々介護、ギリギリまで頑張ったらええやんか!」 「……まぁ……そうやな」 元宮さんとは違う、キッパリと強い言葉に、思わず笑みがもれる。ほんま、真反対の二人に俺はいつまでも勝てそうにない。 「花束、今から買いに行く? あ、当日の方がもっと綺麗な花あるかもやから、明日の方がええか」 なんて、俺より真剣に考えてくれてる。それに、なんか楽しそうやな。まぁ、空が楽しいならそれでええか。それに空が言うように、家族の前で気持ちを伝えた方が、洸くんにもみんなにも、本気の気持ちが伝わっていいかもしれん。 「……今から一緒に見に行って決めるから、明日俺らが料理作ってる間に買ってきてくれへん?」 「お! 新も本気出てきたやん! 明日、洸くんにプレゼントも買いに行きたいから、その時に一緒に買いに行ってくるわ」 「ほんまは今日行くつもりやったんやけど、弦くんはほんまに……」 なんてボヤいている空が微笑ましい。それにしても、弦くんの立ち位置がいつまでも「頼りないお兄ちゃん」のまんまで可愛らしいけど、結婚となると、俺も、洸くん同様に心配になってきたな。 今までの募る話を、花屋に向かう道すがら、空と笑いながらお互いに話し合う。 かつてのライバルは、戦友になり、家族になり、今日、親友になった。 あの日、洸くんに伝えた言葉を思い出す。 ――『俺、帰ってきてよかった』 空には少し気恥ずかしくて口には出せなかったけれど。いつか、ちゃんと伝えられたらいいなと思う。

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