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プロローグ
ユーリスは世界の終わりに取り憑 かれていた。
世界の終わり──すなわち、千年前に繁栄を謳歌 していた古代種たちのほぼ全てを、神が絶滅させたと言われる『大災厄』のことだ。
教会を母体とするこの国の学校では、昔から子供たちにこんなふうに教えてきた。
「神は地上に蔓延 る堕落を嘆き、これを滅ぼすことにし、天使を地上に遣わしました」
火山が炎を吹き上げ、止まない雨が世界を包み、雷が森を焼いた。大地は揺れ、田畑は毒の茨に覆われた。海嘯 が地上の命を押し流し、そして最後には、天から降り注ぐ星々が文明を灰燼 に帰した。
七つの災厄が地上を襲い、数多く存在していた種族のうち、最も敬虔 だった人間だけが罰を免れた。人間の王アルヘヴィスは、神の遣いである天使たちに、これからは清く生きていくことを約束した。
「しかし、生き残った我ら人間に、天使はこうも言われました」
教師は、教室に居並ぶ子供たちの顔を見回した。その中でただ一人、不服そうな顔をしているユーリスにほんの一瞬だけ目を留めたものの、気付かないふりをして先を続けた。
「千年の後に、もう一度審判が下されるだろう。その時に人びとが正しい行いを忘れていたら、大災厄が訪れ、地上は再び無に帰する──と」
「それっていつですか、先生?」
子供たちの誰かが、怯 えた声で尋ねた。すると教師は少し困ったような顔をして答えた。
「君たちが大人になる頃に、ちょうど千年を迎えると言われているよ」
教室がざわめく。「大人って何歳?」「どこに逃げたらいいの?」と泣き出しそうな声を出すものもいる。
そんな中、ユーリスは立ち上がって声を上げた。
「じゃあ、どうして大災厄が来るのをぼんやり待っているんですか?」
「あー……何だね、ユーリス?」
たじろぐ教師に向かって、ユーリスは、今度は聞き漏らしようがないほど大声で尋ねた。
「子供を脅かそうとしてこんな話をするくらいなら、大災厄を防ぐためにどうすればいいかを考えて、それを僕らに教えるべきじゃないんですか? それが大人の役割でしょ?」
今思い返しても、生意気な子供だったと思う。だが、そんなふうに歯向かったのには、ユーリスなりの理由があった。
そのひと月前、魔法考古学者だったユーリスの父が、遺跡探索中の事故で命を落としたのだ。
大災厄の謎を追い求めていた父は、ユーリスにいろいろなことを教えてくれた。
与えられた知識を鵜呑 みにするのは、無知でいるよりなお悪い。学び続けることでしか、人はよりよい存在になれないのだ。父はいつも、そう言っていた。
父は、大災厄が神の怒りによって起こったわけではないのだと証明しようとしていた。『繁栄も厄災も、人びとの歴史の積み重ねによって引き起こされるものだ。神に全てを委ねるのは、己の責任を放棄するのと同じだ』と。
ユーリスには、父の言葉の半分くらいしか理解できなかったけれど、その正しさを疑ったことはなかった。ユーリスは、父が大好きだったのだ。
教室はしんと静まり返った。生徒たちの視線は、ユーリスと教師の間を不安げに行き来している。
教師は気を取り直し、忍耐強くユーリスを諭そうとした。
「ユーリス、防ぐもなにも、大災厄は神のご意志で──」
「神に意志なんかあるもんか!」
だったらどうして、あんなに優しかった父さんが死ななきゃならなかったんだ。父さんは、他の人にはできない仕事をしていた。真実を見つけて、世界を助けようとしていたのに──とは、言わせてもらえなかった。業を煮やした教師がユーリスの耳をつまみ上げて、校長の執務室に連行したからだ。
その後の折檻 は強烈だったが、ユーリスに従順さを植え付けるには手遅れだった。痛みは『二度と説教中に余計な口を挟まないようにしよう』という教訓に変わっただけで、かえって強情さが鍛えられたくらいだ。
当時も今も、間違ったことを言ったとは思っていない。
だからこそ、ユーリスは大災厄の真実を解き明かすための道を──父と同じ学者になる道を選んだのだった。
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