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エピローグ

 セレンとリヴァルの再婚が正式に認められたのは、それからしばらく経ってからだった。  今度の婚礼は、最初の時とはなにもかもが違っていた。日取りも式の規模も二人で相談し、セレンは自分で選んだ礼装に袖を通した。短くなった白灰色の髪には、旅の途中でも最後まで手放さなかった銀の髪留めがある。髪を結うにはまだ足りなかったが、留められる位置を探して飾ってもらった。  大聖堂にはグランディオの人々だけでなく、ルミナリアからも家族が訪れていた。母と弟たち、リネアの姿を見つけたあと、少し離れたところに父がいることに気づいた時には、セレンも驚いた。その後ろには各国から招かれた代表や使節、貴族たちの姿も見える。以前なら気にしていたはずの視線も、今はさほど気にならなかった。  父は婚礼の最中、終始どこか不服そうな顔をしていた。二人が誓いを交わす時も、祝福の声が上がった時も、腕を組んだまま難しい顔をしている。その姿はいかにも父らしく、セレンはそれ以上なにかを求めることもしなかった。ここへ来てくれた。それだけでも、以前とは違っていた。  誓いの言葉を交わし、リヴァルがセレンの手を取る。  最初の婚礼では、なにも知らない相手と決められた言葉を交わした。けれど今は、隣に立つ人がなにを嫌い、なにに怒り、どんな時に自分を守ろうとするのかまで知っている。何度もぶつかり、一度は別々の道を選び、それでも互いに相手のいる場所を目指して戻ってきた。  リヴァルの顔が近づいてくると、セレンも迷わずそれを受け入れた。二人きりの客室で先に交わした約束を、今度は多くの人々の前で確かめるように、誓いの口づけを交わした。  式が終わると、父王たちはその日のうちにルミナリアへ戻ることになっていた。セレンも見送りに出て、母や弟たちと言葉を交わす。最後まで残った父は、馬車へ乗り込もうとしてからセレンへ向き直った。 「セレン」 「……父上」  父はなにかを言おうとして、なかなか口にしなかった。以前なら、セレンの方から相手の望む言葉を探していたかもしれない。けれど今は、父が自分で言葉を選ぶのを待った。 「……すまなかった」  セレンは父の顔を見た。父も、今度は逸らさなかった。しかしセレンはその詫びに対しては、きゅっと唇を結んだままなにも言わなかった。ややあって返答がないことを悟った父王は馬車の中へ入る。 「元気で」 「……はい。父上も、お元気で」  許したのかと聞かれても、セレンにはまだわからなかった。宴の夜に言われたことも、それ以前の年月も、この一言ですべてなくなるわけではない。それでも、父が初めて自分の顔を見て謝ったことまで拒む必要はないと思えた。  それだけを交わして、セレンは父を見送った。  婚礼を終えても、セレンの暮らしが大きく変わったわけではなかった。以前から学んでいた兵站の知識を生かし、物資や補給路について意見を求められることが増え、やがて遠征にも同行するようになった。  暮らす場所だけは変わった。  二人は婚礼を機に、新しく用意した部屋へ移った。以前セレンが使っていた部屋でも、リヴァルが一人で使っていた部屋でもない。二人で家具を選び、必要なものを揃えた、二人のための部屋だった。  身の回りの世話は引き続きノエとヤオが近侍として付き添ってくれたが、以前よりあれこれしてもらうことも減った。  そこで共に食事をし、寝る前になるとセレンは日記を書き、その姿をリヴァルが眺める。やがて二人で寝台に入り、同じ場所で眠る。  それが、いつの間にか二人の日常になっていた。  時々庭に出て、二人で楽器を弾くようにもなった。リヴァルは教えるのが得意でなかったが、半年もするとセレンの腕もそれなりになった。  戦場へ出る時にはアルバではなくリヴァルのディノへ一緒に乗ることも多かった。  リヴァルの後ろから周囲の地形と部隊の動きを見ながら、補給路が伸びすぎていることに気づけば伝え、退路を確保する必要があれば進言する。必要になれば魔法を使い、背中を預けたリヴァルが前へ出るための隙を作った。  守られるだけではなく、自分にも守れるものがある。けれど、そのために自分を使い潰す必要はないということも、今ではわかっていた。  無茶をしそうになれば先にリヴァルに申告し、リヴァルもまた無茶をしそうになれば今度はセレンが止める。  どちらか一方だけが相手を守るのではなく、二人とも帰ることまで含めて戦うようになった。  ある日の遠征から戻ったあと、ガルドが二人を呼び止めた。 「そういや、二人に言っとくことがある」 「なんだ」 「セレン殿下のことだ。最近の研究でわかったんだがな、発情期が来ねえからって、妊娠しないわけじゃねぇぞ」  セレンは意味を理解するまでに少し時間がかかった。 「それでは……」 「可能性はあるってことだ。絶対とは言わねえけどな」  そこまで聞いたところで、セレンは自分の顔が熱くなるのを感じた。隣を見る気にはなれなかったが、リヴァルもなにも言わないので、どういう顔をしているのか余計に気になる。  ガルドはそんな二人を見比べると、リヴァルの肩をぽんと叩いた。 「……ま、頑張んな」 「なにをだ」 「そこまで俺に説明させんな」 「ガルド」  セレンが呼ぶと、ガルドは聞こえなかったことにして去っていった。 「……忘れろ」 「無理だと思います」 「俺もだ」  それ以上はどちらも口にしなかった。子を持つのか、持たないのか。それもまた、いつか二人で決めればいいことだった。  城へ戻る途中、厩舎の前を通ると、白い馬が柵の向こうからセレンを見つけて鼻を鳴らした。 「アルバ」  近づくと、アルバは慣れた様子でセレンの手へ鼻先を寄せる。その隣にはディノがいて、こちらはリヴァルが差し出した手を当然のように受け入れていた。  セレンはアルバから手を離し、隣にいるリヴァルを見た。 「リヴァル様」 「なんだ」  呼んでみたものの、特に用事があったわけではなかった。それでもリヴァルは待っている。  セレンはその手を取った。 「帰りましょうか」 「ああ」  指を絡める必要も、強く握る必要もなかった。互いの手がそこにある。それだけで、満たされている。  これから先も、きっと、ずっと。  二人は手を取り合い、並んで二人の暮らす場所へ戻っていった。 END

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