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第2話 再会、そしてキス。(後)
「やー、ガチで助かったわ。マジ救世主!」
「ハハ、大袈裟だなぁ」
自宅までの暗くて人気のない道を俺は優真とふたりで歩いていた。
昼間はまだ残暑がキツいが、この時間になると大分涼しくてやっぱりもう秋なんだなと実感する。
――あの後、学祭で演奏する曲の楽譜を見せると優真は早速パート練習をはじめ、最終的には皆で合わせ練習まで出来た。
「でも僕も、再会早々奏汰の役に立てて嬉しかったよ」
なんていいヤツなのだろう……!
俺は感動を覚えながら言う。
「もうほんと感謝しかねぇし。――あ、そうだ。お礼!」
「え?」
「お前今何か欲しいものとかないか? 食いたいもんでもいいし、何かあったら遠慮なく言ってくれよな!」
すると優真はそんな俺から一度視線を外し空を見上げた。
俺も一緒に空を見上げると、多分一番星がチカチカと瞬いていた。
「うーん。そうだなぁ」
「あ、でもあんま高いものは勘弁な?」
「じゃあ、キス」
「え?」
聞き間違えかと思って聞き返すと、優真は視線を俺に戻してにっこりと笑った。
「奏汰からのキスが欲しいな、僕」
「……へ?」
少しの間を開けて、俺の口から随分と間の抜けた声が漏れていた。
「演奏一回につき、一回、奏汰からキスしてもらおっかな」
人差し指をぴんと上げ楽しそうに続けた優真を見ながら、俺は自分の笑顔が固まるのを感じた。
(……えーと、これはあれか、アメリカンジョークってやつか?)
優真の引っ越した先が確かアメリカだったことを思い出し、俺はハハハと笑った。
「そういうの、向こうで流行ってんのか?」
「え? 別に流行ってないよ。僕がして欲しいだけ」
あっけらかんと言われて、俺は心の中で大きく首を傾げる。
(うーーん?)
「今日は2回演奏したから、2回ね。はい!」
優真は立ち止まり、俺に向かって両手を広げた。
(えーーーと?)
しかし、そこで俺はようやくピンと来た。
(あっ、そっか。海外では親愛の意味でハグして頬にキスするんだっけか)
そういうことかと納得して(同時に少しホッとして)俺はギターを背負い直し自分も両手を広げて思い切って優真にハグをした。
そして身長差があるので少し背伸びをし、その両頬に一回ずつ軽いキスをする。
洋画か何かの見様見真似だけれど、確かこんな感じだったはずだ。
それでもなんだか無性に恥ずかしくて、俺はすぐに身体を離し照れ隠しに笑った。
「こういうの慣れなくて、変だったらごめんな」
「……」
しかし、優真の顔はなぜか頗る不服そうだった。
(なんでだ!?)
精一杯頑張ったのにとショックを受けながら俺は慌てる。
「え、やっぱなんか変だったか!?」
「……ううん。いいよ。今回は」
溜息交じりに小さく言って優真は再び歩き出した。
今回は、という言葉は気になったが、それを追いかけるように俺も歩き出す。
「そ、そういえばさ、こっちに帰って来たって、家はどこなんだ?」
もう少しこの道を行けば俺の家だが、昔優真が住んでいた隣の家はとうの昔に別の家族が住んでいる。
ここまで一緒に来たということは、新しい家もこの近所なのだろうか。
「随分変わっちゃったね、この辺」
「え? ああ、そうだろ」
「マンションがすごく多くなっててびっくりした」
「そうそう、いつの間にかにょきにょきとな」
「昔よく僕たちが遊んでた公園は?」
「あ、それならまだあるぞ。明日行ってみるか?」
「うん」
そうして笑顔の戻った優真にほっとして、そうこうしているうちに俺の家に着いてしまった。
優真は俺と一緒にうちの前で立ち止まり、明かりのついた隣の家を見上げている。
「今、どんな人たちが住んでるの?」
「今はご夫婦がふたりで住んでる。子供がいたけど随分前に出たみたいだ」
「そっか」
懐かしそうに目を細めた優真を見て、俺は言う。
「ちょっと、うち上がってくか?」
「え?」
「うちの母さんも喜ぶと思うし」
すると、優真はふっとなぜか可笑しそうに笑ったあとで頷いた。
「うん。じゃあ、お邪魔しようかな」
「おう!」
そうして俺は門扉を開け優真を迎え入れるとそのまま玄関ドアを開けた。
「ただいまー!」
そう声を上げると、すぐに母が居間の方からパタパタとやってくるのがわかった。
(母さん、きっと驚くだろうな)
俺と同じできっと優真だとはすぐにわからないだろうから、ちゃんと説明しないとな。
そう考えていると、しかし俺たちの前に現れた母は満面の笑みで言った。
「ふたりともおかえりなさい。優真くん、よく来たわね!」
「え?」
母のそんな歓迎の言葉に俺は目を瞬く。
「ただいま。改めて、今日からお世話になります」
そうして俺の後ろで丁寧に頭を下げた優真を見て、俺は一拍開けてからデカイ声を上げた。
「えぇっ!?」
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