9 / 16
第9話 ラブソング
HRが終わりソッコーで部室に行くと今日は一番乗りだった。
これで皆から何も言われずに済むなとほっとしつつ機材の準備をしていると次に入ってきたのは優真だった。
「ありがとな。ってか早いな。まだ15分前だぞ」
掛け時計を見ながら言うと、優真はちょっとムっとしたような顔で言った。
「昨日だってこのくらいの時間に着いたんだけど」
「あ、そうだったのか」
だとしたら、一時間近く待たせてしまったことになる。
「ほんと、昨日は悪かったな」
と、優真は早速キーボードの準備を始めながらしれっと言った。
「だって、僕は早く奏汰に会いたいし」
どきりとする。
同時に俺は焦りを覚えた。
「あ、あのな、優真」
「なーに?」
「椋や律の前では、そういうのは無しで頼むな」
すると優真は準備の手を止め俺の方を見た。
「そういうのって?」
「だ、だから、その」
「僕が奏汰が好きってこと?」
「! そ、そう」
顔が赤くなるのを感じながら俺は頷く。
「ふたりは何も知らないからさ……」
そういえば昨日も皆の前で思いっきりハグされたのだ。
あのときはまだ俺も優真の気持ちを知らなかったから、ただ驚いただけで済んだけれど。
告白を受けた今、俺自身平然としていられる自信がなかった。
優真はちょっと口を尖らせて言った。
「わかったよ。僕だって奏汰に迷惑を掛けたいわけじゃないし。皆のいる前でそれっぽい言動は控えるようにする」
「ありがとな」
気まずいながらも笑顔でお礼を言うと、優真も笑顔になった。
「その代わり、ふたりっきりのときは好きって言うしハグもキスもしていいよね?」
「していいとは言ってねーから!」
「なんの話だ?」
ガラっとそのとき部室の扉が開き椋と律が入ってきて心臓が止まるかと思った。
「何がしていいって?」
「な、なんでもない! こっちの話!」
慌てて誤魔化していると、視界の端で優真が肩を震わせているのが見えた。
「よし、これで2曲は決まったな」
話し合いの結果、2曲目も俺も皆も演奏し慣れた人気バンドのヒットソングに決定した。
「あと一曲はどうするか……」
「これ、オリジナルだよね」
優真が元々演奏するはずだった楽譜を見ながら言った。
「そう。美緒が、元キーボードの子が作詞作曲した曲。だけど俺には歌えねーし、勝手に歌うのも気が引けるしな」
「あのさ……」
「ん?」
優真が小さく何か言いかけて口を閉じてしまった。
「どうした?」
気になって訊くと、思い切るようにして優真は再び口を開いた。
「……僕の、オリジナル曲はダメかな」
「え?」
皆が驚く中、優真は自分のバッグから楽譜を取り出した。
「これ、なんだけど……」
ちょっと気恥ずかしそうに差し出されたそのファイルを俺は受け取り、椋と律にも見えるように机に広げた。
「一応バンドスコアにしてみたんだけど、おかしなとことか、やりにくいとこがあったら全然変えちゃっていいし」
ギターボーカル、ベース、ドラムス、ピアノ。
ぱっと見、どのパートもそれほど難しい箇所はなさそうだ。
おそらくはロックバラード。
「すげぇな優真、作詞作曲も出来んのか」
「でも実際に演奏したことはないし……。やっぱ今からじゃ、さすがに無理かな」
俺たちは顔を見合わせて頷く。
「なんとかなると思う」
「ほんと?」
優真の目が期待に輝く。
「まだ10日あるし。俺らなら行けんだろ」
「うん、やってみよう」
椋と律が笑顔で答えると、優真は頬を紅潮させて頭を下げた。
「ありがとう」
「こっちこそ、ありがとな優真。お蔭でセトリ決定だ!」
「うん……!」
優真は満面の笑みで頷いた。
「悪ぃ、奏汰」
その後、椋と律がこっそりと俺に謝罪してきた。
「昼間言ったこと撤回するわ」
「え?」
「あいつ、あの顔であれはズルイ。お前があいつを可愛がってる理由がよーくわかったわ」
「え……」
律も神妙な顔で頷いた。
「何あれメロ過ぎ。あれはモテるね。間違いない」
だろ?と笑いながら、そんなメロ過ぎる奴に今好意を伝えられて困ってるなんて絶対に言えねーなと思った。
そして、更にその後のことだ。
早速、優真オリジナル曲のパート練習をすることになり、俺はその歌詞をよくよく読んで気づいてしまった。
(ちょっと待ってくれ……これって)
がっつりラブソングだった。
しかも、会いたくても会えない切ない恋心を綴ったもので。
優真の気持ちを知ってしまった俺には、どう見ても優真の俺への想いを込めたラブソングにしか思えなかった。
恐る恐る優真の方を見ると。
「奏汰のボーカル、楽しみにしてるね」
俺が気付くのを待っていたかのように、優真はにっこりと笑った。
(マジでか……)
これから練習の度に羞恥心と戦わなければならないのだと知り、俺は愕然としたのだった。
ともだちにシェアしよう!

