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第13話 拒絶

「軽音部に、戻りたい?」  俺は呆けた声を出した。  放課後、今日も皆で練習しようと部室に入ると椋が俺に頭を下げていた。 「――ちょ、ちょっと待ってくれ……美緒が? どういうことだ?」  2週間前にも同じような台詞を口にした気がする。  律は先に話を聞いていたのか、そんな椋を呆れたように見つめている。  優真は、まだ部室に来ていないようだ。 「よりを戻したんだ。俺ら」 「それは、良かったけどさ」 「それでな、美緒が最後にどうしても俺らとバンドやりたいって言うんだよ」  それを聞いて俺は目を剥いた。 「何言ってんだよ! そんなの、今更無理に決まってんだろ!」 「だよね~、俺もそう言ったんだけどさ」  律が溜息混じりに言う。  しかし、椋は俺に頭を下げたまま、真剣な声音で続けた。 「わかってる。俺も最初は何言ってんだと思った。でも、元は全部俺のせいだし……彼氏として、バンド仲間として、美緒の願いを叶えてやりたい。だって、美緒にとっても最後のステージだろ」 「そりゃ、そうだけど……」  美緒の気持ちも、椋の気持ちもわからないわけじゃない。  3年間ずっとやってきた仲間だ。俺だってそのつもりでずっとやってきた。  だからこそ2週間前あんなに慌てたのだ。なのに。 「だって、じゃあ優真はどうすんだよ!?」 「ゆ、優真っ」  律のバツの悪そうな声を聞いて、ハっとして俺は部室の入口を見る。  いつの間にか優真が目を大きくしてそこに立っていた。 「優真」 「……っ」  優真は俺から目を背けると、そのまま部室を飛び出していった。 「優真!」  俺はすぐさまそれを追いかけた。  椋と律の声が聞こえた気がしたけれど、振り返っている余裕はなかった。  優真を追いかけて辿り着いた場所は屋上だった。  開きっぱなしになっている扉をくぐると、空が淡い紫から茜色へ綺麗にグラデーションしていた。  優真は高いフェンスの前でひとり校庭を見下ろしていて。 「優真……?」  ここからではその顔がよく見えなくて、俺は息を整えながらゆっくりと近づいていく。 (……泣いてるのか?)  この時間、屋上には運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏など様々な音が響いてくる。軽音部の他のバンドの演奏もその中に混じっていた。 「学校の屋上、憧れてたんだよね」 「え?」  あっけらかんとした声が返ってきた。  優真は笑顔だった。 「ほら、小学校って屋上立入禁止だったじゃない?」 「あ、あぁ」  確かにそうだったなと思い出して、でも今はそんなことどうでもいい。   「あのな、優真」 「あーあ、やっぱり夢だったんだ!」  俺の言葉を遮るように優真は言って夕焼け空を見上げた。 「最初っから夢みたいだと思ってたし。そんなに都合よく行きっこないよね」 「優真?」 「でもね、この2週間本当に楽しかったし、幸せだったんだ。だから、僕のことは気にしないでよ」 「優真、俺は」  こちらを見ずに優真は明るく続ける。 「椋くんも言ってたけどさ、美緒さんにとっては最後のステージでしょ? 僕はまだ1年だし、これからまだ何度もチャンスはあるんだし。まぁ、奏汰と一緒に演奏できるチャンスはもうないかもだけど」 「聞けよ優真! 俺はお前と、」  その腕を掴んでこちらを向かせようとして、バシっとその手を払われた。  ――!?  はっきりとした“拒絶”に、俺は驚いて目を見開く。  優真が、涙をいっぱいに溜めた目で俺を睨んでいた。 「いいって! どうせ奏汰は僕との約束だって忘れてるでしょ!?」  ずきりと胸が痛んだ。  優真は自分の口から出たその言葉に自分で驚いた様子で俺から視線を逸らした。  その口元が精一杯笑おうと歪むのを見た。 「……8年だもん。忘れたってしょうがないよ。僕が、ただひとりでずっと憶えてただけだし。だから、奏汰は何も悪くない。……だけど、やっぱりちょっと……悔しい、かな」  そうして、優真は何も言えない俺の横をすり抜け去っていった。  ――動けなかった。  先ほどのように、優真を追いかけることが出来なかった。

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