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第14話 記憶
ひとり部室に戻ると、どこかで待機していたのだろうか、美緒がいた。
美緒は椋と一緒に俺に頭を下げた。
迷惑をかけたことを謝罪され、迷ったけれどやっぱりこんなかたちで終わらせたくはなくて、全曲なんて言わない、1曲だけでも演奏させてもらえないかと涙ながらにお願いされた。
優真にも謝罪と共にそう伝えたいと言われ、俺はすぐさま優真にメッセージを送った。
しかし、いくら待っても既読にもならず、このまま練習する気分にもなれず、俺は優真を説得してくると言って先に帰宅することにした。
もしまだ帰っていなかったら探すつもりだった。
「優真くんならもう帰ってきてるわよ」
帰宅すると、母がきょとんとした顔で言った。
確かに玄関には優真の靴があった。
「明後日本番なのに、今日はふたりとも早いのね?」
母にそう言われ、俺は今日は自主練日なんだと適当に誤魔化して2階へと上がった。
少しの緊張を覚えながら優真の部屋のドアをノックをする。
しかし反応はなくて、俺は仕方なく廊下から声をかけた。
「優真、メッセージ見てくれたか?」
……返事はない。
「皆、お前を待ってるから。美緒は一曲だけでいいって言ってる。だから、他は予定通りに」
ガチャ、とそのときドアが開いた。
優真は俺と目が合うと、にこりと笑った。
「僕のことは気にしないでって言ったのに。美緒さんにも皆にもそう伝えてよ。奏汰だって、3年間の集大成でしょ。頑張ってよね」
「でも、」
バタンとそこでドアは閉じられた。
「優真……」
俺の声が虚しく廊下に響いた。
――俺のせいだ。
やっぱり俺が、優真との約束を忘れてしまったから。
優真は俺と離れていた8年間ずっとその約束を大切にしていてくれたのに。
(そんなの、怒って当然だろ)
自室に戻って、俺は自分のバカ過ぎる頭を両手で叩いた。
「くっそ、なんで思い出せねーんだよ……っ」
いつもより少し早い夕飯時、優真は表面上はいつも通りだった。
でも、結局一度も目が合うことはなかった。
その夜、俺はひたすら自主練をした。
元々美緒を含め弾くはずだった曲と、この2週間優真と練習してきた曲、どちらも指先が痛くなるまで練習した。
……隣の部屋からピアノの音色が聞こえてくることはなかった。
***
土曜の朝。
部室に集まると律は言った。
「優真はやっぱダメか?」
「ああ、今朝も誘ってはみたんだけどな」
「ごめん、私のせいで……」
「いや、元は俺のせいだから」
美緒と椋が続けて申し訳なさそうに頭を垂れて、俺は首を振った。
「や、お前らのせいじゃない」
「え?」
皆が俺を見た。
俺は視線を落として言う。
「詳しくは言えねーけど、今回のことは全部俺のせいなんだ」
「どういうこと?」
「……あのさ、俺の勘違いだったらごめんなんだけど」
律が言いにくそうに続けた。
「あの「IMY」って、優真のお前への歌だったりする?」
ドキリとした。
どうしようもなく顔が熱くなって、その熱はどうやったって誤魔化せそうになかった。
俺の沈黙を肯定と取ったのか、律は「やっぱりね」と小さく息を吐いた。
「まぁ、優真のあの態度見てたらバレバレなんだけどさ」
恐る恐る顔を上げると、椋も少し気まずそうに笑っていた。
それを見て椋も気付いていたのだとわかった。
「え、なに、どういうこと? 「IMY」ってなに?」
美緒だけが、わけがわからないという顔で俺たちをキョロキョロと見回していた。
「はぁ!? なにそれ最悪! そんなの優真くん可哀想過ぎじゃんね!」
「だから、俺のせいだって言ってんじゃん……」
仕方なく美緒にも軽く事情を話すと(勿論キスの話なんかはしていない)もの凄い勢いでダメ出しされた。
そういえばこういう奴だったなと思い出す。
「私だって最悪だけどさ、私がもし優真くんの立場だったらマジ無理。即アメリカ帰るわ」
「言うなって、へこむから……」
「思い出せねーのかよ、奏汰」
椋にも言われて俺は椅子に座ったまま頭を抱え唸る。
「小さな頃、優真くんのピアノに合わせて奏汰がギターボーカルやってたんでしょ?」
「……俺はそんときまだエアーだったけどな」
美緒が腕を組んでうーんと唸る。
「奏汰のことだから、帰ってきたら一緒にバンド組もうぜ~とか言ったんじゃないの?」
「あー、言いそう」
(一緒に、バンド組もうぜ……?)
美緒のその台詞を聞いた途端、頭の中でパチリと何かハマる音がした。
「……言った、ような気がする……」
「え?」
皆が俺を見る。
「俺、優真とそんな話してた気がする」
――アメリカになんて、僕行きたくない!
そんな優真の泣き顔が蘇って、次の瞬間、サーっと霧が晴れるように、そのときの記憶が鮮明になった。
「あぁーーーー!!」
デカい声を上げて勢いよく立ち上がると、律が「うっせ」と顔をしかめた。
俺は小さく呟く。
「……思い、出した」
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