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第15話 ラストステージ
「絶対それじゃん」
「間違いねーな」
俺は大きく頷く。
「それをこれまで忘れてたとか、ほんと無いわ~」
「うっ……」
美緒に痛いところを突かれて呻くが、やっと思い出せたことに安堵する。
そして同時に改めて酷い罪悪感を覚えた。
優真に、今すぐに謝りに行きたいと思った。
「でもさ、今そのことを言っても、優真くん戻って来にくいんじゃない?」
「確かに……」
美緒と椋のため息を聞いて、俺はぐっと拳を握る。
「今は、明日のために練習しよう」
「え? でも、優真くんは?」
俺は皆の顔を見回した。
「優真のことは俺がなんとかする。……それでさ、お前らにちょっと頼みたいことがあるんだ」
***
そして、いよいよ学祭当日がやってきた。
俺たちのバンドは軽音部のステージのラスト、大トリだ。
この3年間本当に色々とあったけれど、これが俺の、俺たちの高校生活最後のステージとなる。
そう思ったら、どうしようもなく胸が熱くなった。
体育館には多くの観客が集まっていた。
今日は雨が降ったり止んだりの空模様で、だから余計に人が入っているのかもしれなかった。
緊張は勿論あるけれど、それ以上に自分の出番が待ち遠しくてたまらなかった。
――優真には、朝家を出るときに廊下から声を掛けた。
「今日、俺たちの出番ラストだから。絶対、来てくれよな」
案の定、返事はなかったけれど……。
軽音部のステージはタイムテーブルの通りおおむね順調に進んでいき、あっという間に俺たちの番がやってきた。
「よし、行くか!」
「うん!」
「おう!」
「っしゃ!」
皆で声を掛け合って、俺たちはステージ上に出ていく。
多くの拍手に迎えられながら各々後輩たちが事前に準備してくれた楽器の前に立つ。
まずは一曲目、MCなしでいきなり律のカウントが入り一斉に演奏が始まる。
今流行りの曲にワっと観客が沸いた。
そして美緒の巧みで澄んだ歌声が体育館に響き渡る。
(やっぱ、美緒はすげぇな)
本心からそう思った。
俺も負けてはいられないとリードギターの見せ場であるギターソロのシーンでこれまでで最高の演奏をしてみせた。
お蔭で観客は大盛り上がり。つかみは上々だった。
2曲目の前に美緒のMCが入り、このバンドの紹介があった。そして美緒のオリジナルソングが始まった。
美緒の弾き語りから始まる静かな曲に観客が見入るのがわかった。
それから徐々に俺たちの楽器が加わっていきサビで一気に盛り上がる曲に多くの拍手が起こった。
観客に向かって深くお辞儀をしたあと、美緒は俺の元へ来て満足げな顔でマイクを渡してきた。
「ありがとう、奏汰。あとは任せた」
「おう!」
そう言葉を交わして、俺はマイクを手に先ほどまで美緒が弾いていたキーボードの前に出ていく。
ざわざわとし出した観客の前で、俺は一呼吸してからマイクで語り始めた。
「今日は俺たち軽音部のステージにたくさんお集まりいただき、本当にありがとうございます。ライブの途中ですが、少しお時間をもらって、俺からとある奴へメッセージを伝えさせてください」
観客がどよめく。
(……優真、いるよな?)
ここからでは観客席が暗くて、その姿がわからない。
でも絶対に見てきてくれていると信じて、俺は続ける。
「俺とそいつは幼馴染でした。でも小学生の頃にそいつは海外に引っ越すことになってしまって。俺はその時に、そいつと約束をしたんです。いつか戻って来たら、一緒にバンドを組もうと」
――そう。あのとき、俺たちは約束をしたのだ。
「もう泣くなよ、優真」
俺に抱きついて離れない優真の頭を撫でながら俺は言う。
「だって、すごく遠いんだよ? 次いつ会えるかわからないんだよ? アメリカになんて、僕行きたくないよ!」
そんな優真に俺は精一杯の笑顔を向ける。
「何言ってんだ、優真。優真はラッキーなんだぞ」
「え?」
呆けた顔でこちらを見上げた優真の前にぴんと人差し指を立てる。
「アメリカはな、ロックの本場なんだ」
「ほんば?」
優真がぱちぱちと目を瞬く。
「そう。だからさ優真、俺の代わりにアメリカで本場のロックたくさん聴いてきてくれよ」
「!」
「そんでさ、こっちに戻って来たら、一緒にバンド組もうぜ!」
にぃっと笑うと、涙でいっぱいだった優真の目がキラキラと輝き始めた。
「奏汰と僕が、バンド?」
「ああ!」
「絶対?」
「絶対!」
「絶対だよ! 僕、絶対にここに戻ってくるから! そしたら奏汰、僕とバンド組んでね!」
「ああ、約束だ!」
そうして、俺は優真と指切りを交わしたのだ。
ぐっとマイクを握り締めて、俺は続ける。
「そいつが、最近こっちに帰ってきました。しかも、この高校に編入したんです。だから今、この場であの日の約束を果たしたいと思います」
俺はマイクを外し大きく息を吸い込んでから思いっきり叫んだ。
「優真! 出て来いよ! 一緒に演奏しようぜ!!」
観客がざわめく。
……これで優真がいなかったら最悪だ。
でも、きっといる。
きっと来てくれていると信じていた。
と、体育館の脇から早足にステージに向かってくる長身の人影があった。
そいつはそのままステージ脇の階段を上がってくる。
そのぶすっと口を尖らせた横顔は間違いない。
――優真だ。
優真は俺の前まで来ると、赤い顔で睨みつけてきた。
「よくこんな恥ずかしいこと出来るよね。馬鹿じゃないの?」
そんな毒舌に、俺はにっと笑って返す。
「キスよりは全然恥ずかしくねーし」
勿論、マイクは外して。
そのまま俺は真面目な顔で謝った。
「ごめんな、優真。約束、やっと思い出した。だから、また俺たちと一緒にバンド組もうぜ」
そうして手を差し出す。
「……っ」
優真は口を真一文字に結んで俯いた。
少しして、小さく震える声が聞こえた。
「しょうがないなぁ」
次に顔を上げた優真は、泣きそうな顔で笑っていた。
「やるよ。ううん、やりたい。また、奏汰たちと一緒に演奏したい……!」
「こっちこそ、頼む!」
そうして俺たちはしっかりと手を握り合った。
盛り上げるように律がドラムを鳴らす。
椋もベースでグリッサンドしてカッコ良く低音を響かせた。
観客席の方からも口笛や拍手が聞こえてくる。
そんな中、美緒がキーボードの位置を少し後ろにずらして、優真を呼んだ。
「色々とごめんね、優真くん。優真くんの演奏、楽しみにしてるから!」
「ありがとう、美緒さん」
そんなふたりの会話を聞いてから俺はマイクをマイクスタンドに差し込んだ。
「大変お待たせしました。それでは、最後に聞いてください。俺たちのバンドのオリジナルソングで『IMY』」
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