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エピローグ

「あっ! 見てよ奏汰、虹! ほら、虹が出てる!」 「お、ほんとだ。ラッキーだな」  ステージの片づけを終えた後、俺は優真に誘われ屋上に上がった。  優真の言う通り、雨上りの空には綺麗に虹がかかっていた。  ――俺たちの演奏は大成功だった。  優真との約束を思い出したからか歌詞が以前よりも胸の深いところまで刺さって、歌声にこれまでで一番気持ちが込められた気がした。  恥ずかしいという気持ちは不思議と全く起こらなかった。  お蔭で演奏が終わると体育館は大歓声に包まれた。  舞台袖に下がっても鳴りやまない拍手とアンコールに答え、俺たちはもう一度ステージ上に出て行った。  そこでは昔エアギターで優真と演奏していたあの思い出の曲を披露した。  まだ興奮冷めやらず、俺は大空に向かって叫んだ。 「あー! もう、これ以上ないってくらい最っ高のステージだった!」  優真がそんな俺を見てクスクスと笑う。 「良かったねぇ、奏汰」 「優真もな」 「え?」  目を瞬いた優真に笑顔で言う。 「夢なんかじゃなかったろ?」  その目が大きく揺れて、それから優真は嬉しそうに頷いた。 「うん」 「ま、それもこれも全部、優真のお蔭だけどな。本当にありがとな!」  すると優真はにっこりと笑った。 「報酬はキスでいいよ?」  がくっと肩が落ちる。 「……それ、まだ続いてるのかよ」 「勿論! 今日は2回だね」  楽しそうにピースした手を振る優真を見て俺はふぅと息を吐く。 「わかったよ」  学祭ライブは無事終了したのだ。  ということは、この報酬もこれで最後。  優真とのキスも、これが最後だ。  ……最後……? (え……?)  それを少し寂しく感じてしまった自分に気付く。 (――ちょ、ちょっと待ってくれ。もしかして、俺……)  顔がどんどん熱くなっていって、そのとき、いつの間にか優真の整った顔がすぐ近くにあった。 「ん……っ」  キスされたことに気付いて、俺は大きく目を見開く。  もう何度もしているのに、いつもとは何かが違った。  顔だけじゃない、全身に広がっていく熱に戸惑いを覚える。  ドキドキとやたら煩い心臓の音に困惑する。 (なんだ、これ……っ)  ――しかも。 「んぅっ!?」  ぬるりと唇の間から生温かいものが差し込まれ驚く。  それが優真の舌だとわかって、逃げる間もなくそれは巧みに俺の舌を絡めとっていく。  背中がぞくぞくして、格好悪く両足が震えた。どちらのかわからない唾液が口端を伝う。  ――初めてのディープキスは、想像していたよりもずっとエロくて、気持ちが良かった。 「……っ」  漸く離れたと思ったらぺろりと唇を舐められて、悪戯っぽく笑っている優真を俺は精一杯睨み上げる。 「お前なぁ、」 「僕からしちゃった。なんか奏汰、キスして欲しそうな顔してたから」 「ば、馬鹿か! ここ学校なんだぞ!? 誰に見られてるか……っ」  全身の熱を誤魔化すために俺は口を拭いながら怒鳴る。 「別に見られたっていーじゃん」 「良くねーし! 変な噂が立ったらどーすんだよ!」  俺の答えに優真はムーっと唇を尖らせた。 「でもさ~奏汰、約束思い出して勝手にすっきりしてるみたいだけど」 「え?」 「間違ってるからね」 「えっ!?」  驚き過ぎて思いっきり声がひっくり返ってしまった。  帰って来たら一緒にバンドを組もうという約束。  てっきり、それに違いないと思っていたのに。 (間違ってた……?)  お蔭で全身の熱は一気に冷めたけれど。 「まぁ、確かにそういう約束もしたけどさ、僕がアメリカで本当に支えにしてた約束はね」  呆然としている俺に近づいて優真は囁くように言った。 「大人になったら結婚しようねって約束」 「!?」  俺はぎょっと目を剥いた。 「なっ、なんだそれ! 嘘だろ?」 「嘘じゃないですー。証拠だってちゃーんと残ってるし」 「証拠!?」  すると待ってましたとばかりに優真はポケットからスマホを取り出し、素早く指で操作して俺に画面を見せてきた。  そこには、かつての幼い俺と優真が映っていた。  おそらくは俺の部屋で机に置いたゲーム機か何かで録画しているのだろう、画質は荒い。  俺はどうやら撮られていることに気づいていないようで、ベッドに寝そべってゲームをしている。 『ねぇ、奏汰!』 『んー?』 『大きくなったら、僕のお嫁さんになってよ!』 『お嫁さん? ははっ、何言ってんだ優真。俺は男だからお嫁さんにはなれないだろ』 『えー、でも、僕奏汰と結婚したいな!』 『結婚かー、男同士って結婚できるっけ?』 『出来ないの?』 『うーん、わっかんねーけど、出来んならいいよ。俺、優真と結婚しても』 『ほんと!?』 『ああ』 『じゃあ、約束ね!』 『ああ、約束な』  そこで動画は終了した。 「ほーらね? 完っ璧な証拠でしょ」 「……」  俺は愕然として、いやいやいやと首を振る。 「こんなの、証拠になるかよ!」 「えー、僕はずーっとこの約束を支えに8年間頑張って来たのになー」 「うっ」  それを言われるとまだ弱い。 「でも、その約束はちょっと……」 「まぁ、日本じゃまだ無理みたいだけど、僕は諦めてないよ。アメリカに奏汰を連れて行ったっていいしね」  にこーっとご機嫌に笑う優真から、もう逃げられる気がしなくて。 「とりあえず、今日の報酬にあと一回、キスしてね。奏汰!」  その無邪気な笑顔にいつか、それも結構近いうちに絆されてしまいそうな自分が怖かった。  ――そんな俺たちを祝福するかのように、空では虹が見事な二重のアーチを描いていた。  END.

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