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プロローグ~終末世界のクリスマス~

プロローグ ――とある冬の日の出来事。  窓の外の色彩は白く、燻ぶっているように見えた。  古びて傾いだ街並みに雪が降っている。  郁は、ぼろの安楽椅子に腰かけながら、古書を読んでいた。  かつて、栄華を誇った「人間」という生き物が残した文明の痕跡である。  甘ったるい古紙の匂い。  微かにページをめくる音。  郁は物語の世界に没頭していた……静かな昼下がりだ。  そこに――どたばたと忙しない足音がした。 「郁、きいて、きいてっ」  ぴょんっとうさぎの耳を跳ねさせて、望月が大きな目をきらきらとさせる。 「……お前はもう少し大人しくできないのか? いつも、騒々しいな」 「だって、サンタさんからプレゼントを貰ったんだよ」 「……それは……もしかして、サンタクロースのことか?」  思わぬ言葉に、郁は驚いた。  この世界は箱庭のような形をしている。  この世界の番人は魔王様だった。  まだ、魔王様がいた頃、世界は平和だった。  人間と亜人種。  相容れない種族でなくとも、表面的な衝突はなく、互いの生活と文化を大切にしていたという。  古の言伝え。 ……サンタクロースというのは、ある文献によると宗教的な存在であったという。  概要を簡潔にまとめるなら、こどもたちに玩具などのプレゼントを与える……赤い服をまとったお爺さんだとか。 「……それは本当なのか?」 「やっぱり、郁もサンタさん信じてたんだ。僕と一緒だね」 「そうじゃない。お前のことだから騙されたりしてないか不安なだけだ」  郁はわざとすげない言い方をしたが――実際のところ、サンタクロースには興味があった。  本の中でサンタクロースは、トナカイという動物を操り、そりで空を移動する。  家の煙突からこっそりと訪れ、こどもたちの枕元に綺麗にラッピングされたプレゼントの箱を置いていく……文献で読んだサンタクロースの逸話はひどくロマンチックだった。 「だ、騙されてなんかないよう! 良い人だったもん。ほら、ちゃんとプレゼントも貰ったんだよ?」  望月が丸い頬をぷくーっと膨らませて、言い募る。  そして、おずおずと大切そうに綺麗なリボンと包装紙でラッピングされた四角い箱をとりだした。  その日の食べ物にも事欠くのが今の時代である。  こんなに綺麗なリボンと包装紙、大きな箱とプレゼントを用意する奇特な人物がいるとは思えない。 (本当にサンタクロースはいたのか?)  郁も、好奇をくすぐられた。 「ねえ、一緒に開けようよ」  にこっと望月が笑う。  どうやら、楽しいことは一緒にしたいらしい。  そんな健気な望月の気持ちが伝わって嬉しいし、郁とて、サンタクロースはいたらいいなとは思っていた方だ。 「う……うん……」 「じゃあ、開けるね」  望月が、そうっとリボンをほどき、おそるおそるラッピングをはがしていく。  まず現れたのは黒と繊細な白いレースの布地。 「これ、なんだろう……」  望月が広げる。  それが何か理解した途端、郁の目が冷ややかになった。  エプロンを模した――いわゆる、エロ下着である。 「まあ、いいや。まだプレゼントはあるみたいだよ?」  望月はプレゼントを貰ったのが嬉しいのか、無邪気に開封していく。 「んんー……さくにゅうき?」  そう、搾乳機だ。  やたら、古びた箱だが、煽情的なパッケージからエログッズの類だと分かった。  今や、郁の目は氷点下にまで達していた。 「ろーたー?」 ……またもや、エログッズだ。  現在では電池は貴重品なうえ、過去の遺物(アーティファクト)は骨董品の扱いであるが、あまりにも最悪なプレゼントのラインナップ。望月が開封を続けているが、こんな悪趣味なプレゼントがあるだろうか。  郁の辛抱は限界だった。 「……捨てよう」 「な、なんで? せっかく貰ったのに」 「使い道がないし、誰かもわからない変態に貰ったものなんて気持ちが悪いだろう」  至極、正論である。 「これって骨董品になるんだよね。売れば、いつもより豪華なご飯が食べれるかもしれないし……僕、アップルパイとか食べたい……」  こちらも、至極正論であった。 「嫌だ。変態からの施しなんて受けたくない。とにかく捨てる。絶対に捨てる」 「ねえ、郁」  鈴を転がすようなかわいらしい声。  ちょい、と服の袖を摘ままれた。  あざとい仕草だ。甘えているのだが、こういうときは大抵、ろくでもないことを考えているに決まっているのだ。 「嫌だ」 「……まだ、何も言ってないんだけど……」 「どうせ、また変なことを提案してくるだろう?」  郁が、望月に甘いことを彼は熟知している。  経験則から分かる。  また、理不尽なことを要求されるに違いない。 「でも、捨てるなら一回、使ってからにしようよ……? こういうの興味あるし」 「絶対に嫌だ!」  むーっと望月が顔をしかめた。  そして、怪しげな瓶にはいったピンク色の液体を一気に煽る。 「ぷ、はっ♡」 「おい、何飲んで……身体に何か異変があったらどうするんだ」 「媚薬……って書いてあった。甘くておいしかったよ? いちごの味、ほら……」  言うが早い、望月が郁にディープキスをした。  いきなり、舌を絡められる。  くちゅくちゅと唾液が粘つく音が、生々しく反響した。 「んふー……っ♡んちゅっ、れろっ、れるるぅ~……♡あ、は♡クチあっつい……郁も? んくちゅるっ、ずるるぅ~……♡」 「んんーっ、ふっ♡ふぅっ♡ん……にゃあ……っ♡」  段々と頭が霞がかっていく。  もうお互いに淫らがましいキスに夢中で、舌先と舌先を擦りあわせる。  触れあった粘膜から熱が生まれ、下腹が疼く。 「ん……くぷぷ……ッ♡れろっ、れるっ、んろっ♡ほら……いちごの味、するでしょ。甘い……ん~……あむっ♡」  ぢゅるるるる~……っと唾液もろとも舌に吸いつかれた。 (キス……気持ち良くて……頭、ぼーっとする……) 「はぁ……郁、かわいい……」  キスの合間に、うっとりと望月が囁く。  あどけない顔にオス臭い表情を浮かべて。  フェロモンの匂いが濃くなっていて、これではつられて安易に発情してしまう。 「ね、えっちなちゅー、きもちいいね? 頭、ふわふわする~……身体、あっつい……」 「ぷ、あ……っ♡も……くるしい……っ、望の目、とろんってしてる……」 「媚薬ってえっちな気分になるお薬のことだよね? ちょっと、頭、ぼんやりして……興奮するかも……」  確かに望月の大きな瞳がぽーっとしている。  なだらかな頬が上気していた。  それを言うなら。  郁とて、キスに昂ったのか、怪しげな薬物の作用かは分からないが、妙に身体がむずむずとして落ち着かない。  にこっと望月が笑った。  ただ、欲情しているせいか、妙に艶めかしい笑みである。  幼い容姿とはアンバランスな色香につい、郁は惑ってしまう。 「ねえ、郁。その服、着てみてよ」  郁の予測通り、あっさりと望月は理不尽な要求をした。

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