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第26話 涙。

 私はベッドの上で目が覚めた。  作った夕食は冷めている、温め直して遅めの食事にしたいくらいお腹が空いていた。  上半身を起こして自室を見渡すと、ピアノの椅子にセドリックが座っていた。 「見た目ほど酷くはないんです、俺の両手。鉛筆は持てるし食事もできる。ただ、ピアノの演奏はできなったけど」  セドと視線が合った。  真っ直ぐな瞳で私を見ているが、吹っ切れたのか救いを求める視線ではない。 「君自身は無事なようで良かった」 「ボロボロだったよ、……街でアルに会うまでは」 「ボロボロになった経験はあるからといって、私をボロボロにしていい理由にはならないだろう?」  そう私が言うと、セドは苦笑いでこう言った。 「最初から事情を説明していたら、アルは泣いちゃうでしょ?それなら俺とのセックスのせいで泣いてくれたほうがいい」 「それは屁理屈だ」  私は真面目な気持ちでこう答えた。 「私は君のために泣きたかった。君の背負うはずだった輝かしい未来が潰えたことが悲しい。セドリック、君は音楽の神に愛されていた」  街の学校に行く前の彼はの演奏ですら、音楽の神に愛されてると感じた。  学校でピアノを学んでいたときの演奏は聴いていないが、男爵夫人が声を掛けたくらいなのだ、とても素晴らしい演奏だったに違いない。  そんな彼の演奏家人生が潰えたのだ、村に帰り直ぐ相談してほしかった。 「でも俺は、この怪我を負ったことに悔いはないよ」 「……」  私は泣いた。  あんなに楽しそうにピアノを弾いていたセドリックが、怪我を負ったことに悔いはないという理由に、私は気付いてしまった。 「俺はピアノが好きなんじゃなくて、ピアノを弾いているアルフレッドが好きだった。気を引きたくてピアノをはじめた俺は、怪我を負った代償であなたと身体の関係が結べた」  セドリックは幸せそうに笑って言った。 「あなたに触れたくなったら、同情をかえばいい」  彼は私に近付いて、そのまま手を引き身体を抱きしめた。 「俺は今、幸せです」  やはり私が想像した理由と、彼が伝えてきたことが一致してしまった。 「……それで私が納得し、言うことをきくと思わないでください」  私は奥歯を思い切り噛んだ。  セドリックがそんな思いで、私に縋ったと思うと悔しかった。  けれどそれは彼の言うとおりだ、私は同情し、これからも身体を受け入れるに違いなかったから。

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