38 / 46
第38話 悲観的な考え。
その日妖精ちゃんが帰ってきたのは真夜中だった。
「妖精ちゃん、お疲れ様。セドリックは大丈夫だったかな?」
そう声をかけると、彼女は私に報告をしてくれた。
『ダニエルは相当セドリックが気に入ってるみたいだったわ。才能をこんな小さな村に埋めておくなんて勿体ないって口にしてたけど、やっぱり何かおかしい気がするの』
確かに音楽家の才能は演奏家としてだけのものではないし、何がおかしいというのだろうか。
それならば尚更ダニエル教官が故意に鍵盤の蓋を落とすような事件を起こすことはしないだろう、と、私は思ったのだ。
「ダニエル教官におかしいことはないと、私は思うのだけど……」
そう言うと、妖精ちゃんは難しそうに顔を歪めた。
『……ダニエルを信じたいアルフレッドには悪いんだけど、あたしも見ちゃったのよ』
「なにをだい?」
『ダニエルの傍にいる生徒や元教え子は、みんな金髪碧眼で儚げな美少年や美青年ばっかで、どこかしらに傷跡があるの。もしかしたら何らかの事故を装って傍にいさせる理由を作ってるんじゃない?』
それはセドも似たようなことを言っていた。
けれど証拠もないのに、ダニエル教官を悪く思うことは出来なかった。
「それは、……偶然じゃないのかな?」
ダニエル教官は起伏が激しいけれど、優しい人だ。
私の家が火事になって、身寄りが無くなったにも関わらず支援すると言ってくれた人なのだから。
『もしかしたらアルフレッド、あんたの家の火事もダニエルの放火ってこともあるのかもしれないわ』
「まさか。ダニエル教官が放火の犯人の訳がない。あれは父様のタバコの消し忘れが出火の原因なのだから」
でも、もしかしたら。
家に籠もっていた私を外に出す目的で放火したのならば……、と、悪い方向に考えてみた。
教官は『誘いを断った教え子』と言っていた。
誘い入れるために事故に見せかけたとしたら、それは紛れもなく犯罪だ。
とりあえず、今は落ち着くことを最優先しなければ。
私はグランドピアノの鍵盤の蓋を開け、テンポが緩やかな優しい曲を演奏し始めた。
少し調律がなっていないピアノの音階だったけれど、私の心は落ち着きを取り戻せることが出来た。
明日調律し直さなければ、と思いながらグランドピアノの下で毛布に包まり就寝した。
ともだちにシェアしよう!

