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第14話

◇  ◇  ◇ 「――なんか、今週どっと疲れた」 「風邪引いたの?」 「そうじゃなくて、ただの疲労。最近立て続けに三人辞めたし、夜勤入るスタッフが足りなくて」  ぐでぇーっとソファに寝転がり、利央は隈の浮かんだ目元を、強めに擦り上げる。  コンビニで四日連続の夜間勤務、それに加えてインターンも加われば確実に過労働。週末の家庭教師は、ありがたいことに送迎付きだが、荒っぽい運転手のせいで肉体的な負担が大きい。先ほども到着早々に、一回嘔吐してきたところだ。 「……今日、ゲームの日だっけ?」 「そうだけど?」 「…………」 「あはっ、大丈夫だって。そんな顔しなくても、負けないって言っただろ?」  齧っていた林檎を置いて口籠ると、陽気な声色で馨が笑い飛ばす。一般人にとっては甚大な精神障害を引き起こす状況も、彼からすれば日常なのだろう。シャツや装飾品などをベッドに並べ、気ままに衣装選びに耽っていた。  あまりの能天気ぶりに、やはりあの光景は演出だったんじゃないか?と、疑いを持ってしまう。しかし鼻に付くような血の臭いや、肌が温度をなくしていく感触は、確かなものだった。 ――どうにか止める術はないのか  彼を生かすための手立ては、きっとどこかにあるはず。幸いにも彼の人気は高く、今すぐに立場が危ぶまれる可能性は低い。問題はその方法を見つけたとして、彼がこちらの手を取ってくれるかどうか――だ。  パフッとクッションで顔を多い、利央は「う〜」っと強かな唸り声を上げた。 「そういえばさ。利央に送金したお金、返ってきちゃったらしいよ」 「またあ〜?」 「たぶん口座番号の入力ミス。中村さんコピペできなくて、全部手入力だから」 「なんで細かいこと苦手なのに、毎週振込にしたかな」 「送金遅れるとペナルティだっけ?」 「ガチガチな契約書作っといて、自分で自分の首を絞めるのか……」  こちらは月払いでいいと提案したのに、週払いを押し通した理由は、おそらく為替レートだろう。振り込みミスの多発で、異世界送金手数料は十倍。みみっちいことを気にして、結果的に馬鹿をみる。典型的な外資系だ。  加えて、AIのくせに手入力とはどういうことだ?と首を傾げるも、タイミングよく立った着信音に、利央は身を跳ねさせた。 「……ビックリした、異世界でも電波入るんだ」 「誰から?」 「優吾。 ……なんだろう? 見てもいい?」 「いいよ」  勤務中であるため、クライアントの許可をとってからスマホを開く。電波状況が不安定なのか、メッセージの読み込みと共に、不在着信が舞い込んだ。 不在着信:7件 未読メッセージ:すぐに連絡欲しい。吉乃さんのことで病院から電話あって、玲香さんと向かってる 「……どうかした?」 「なんか、婆ちゃんの体調が良くないみたい……どうしよう」 「入院してるの?」 「一昨年に肺癌の手術したんだ……けど、それから体調安定しなくて、入退院繰り返してる」 「行っておいでよ、俺は大丈夫だから」 「え? ……いやいや、だめだって。勤務中だし」  顔を振って断るも、ぐいっと手を引かれ、強制的に立ち上がらせられる。添えられた手は優しく背を押し、揺れる心を後押した。 「大丈夫だよ。どっちにしてもライブ配信は夕方だから、間に合うなら戻ってきて」 「本当にいいの?」 「利央のお婆ちゃんには、お世話になったから」 「え? いつ?」 「折り紙のとき」 「ああっ! あれか…………馨、ありがとう。絶対に戻ってくるから」 「うん、待ってる」  繋がれた指先が一つずつ離れて、名残惜しげに手首を摩る。そんな顔をするぐらいならば、許可など出さなければいいのに。本人はきっと、そのことに気が付いてはいない。  もう一度だけ「すぐ戻ってくる」と、声を掛けると、利央は黒く渦巻く時空の歪みへ飛び込んだ。

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