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第2話 表の王子様、裏の若様
豊かで巨大な海上王国、ユートランティア。
王国の中央にあるユートランティア王立学園では、海獣人の生徒たちが切磋琢磨している。
そして、広大な王立学園の一室。
生徒会室の前には、人だかりができていた。
「オルキウス様……!」
「今日もかっこいい……!」
視線の先には、王立学園の生徒会役員たちの姿がある。
オルキウスと呼ばれた生徒は、騒ぐ生徒たちに気がつき、優しく微笑んで見せる。
「王子スマイル……!」
「さすがノワールヴル公爵家のご令息……! 品格が違う……!」
「成績も実技もトップクラスだなんて……」
「会長のアルシオン様とはまた違う魅力……!」
ざわめきが大きくなる。
すると、生徒会室の最奥のソファ──会長席に足を組んで腰掛ける男が鬱陶しそうに目をすがめた。
「閉めろ」
男のその一言で、扉の両脇に控えていた役員補佐たちが生徒会室の扉を閉める。
生徒たちの騒がしい声が、扉が閉まるのと同時に途切れた。
「……はあ。やっと静かになった」
「別に良いんじゃないか、アルシオン」
「……オルキウス。お前は本当に愛想が良いな」
「普通だよ」
アルシオンはふぅ、と疲れたように美しい白髪をかき上げた。シロナガスクジラらしく、堂々とした雰囲気がある。
オルキウスは苦笑した。半分が黒、半分が白の髪がふわりと揺れ、黄金色の目が細められる。
「そういえば」
その時、庶務が首を傾げた。
「昨日、料理研究部から苦情が来たんだけど……」
アルシオンがぴくりと眉を上げる。
「なんだ」
「カツアゲされたって」
「あはは。絶対暴れ鮫くんじゃん。相変わらずだね」
会計が愉快そうに笑う。
「でもさ。暴れ鮫くん、別にお金困ってないでしょ? ホワイトファング家って侯爵家だし。なんでだろね」
庶務が声をひそめた。
「それがさ、とられたものがちょっと問題なんだよね」
「え?」
「包丁。一本持ってかれたんだって」
その言葉に、生徒会室が一瞬ぴたりと静まり返った。
「え怖!? なになになに、人殺す!?」
悲鳴が上がり、ざわざわとし始める。
「……さすがに、まずいな。……オルキウス、どうした」
アルシオンがオルキウスを見た。オルキウスは机に肘をつき、両手を組んで静かに下を向いている。肩が少し震えて、口元が笑っているように見えた。
「いや……なんでもない」
オルキウスはひとしきり肩を震わせた後、顔を上げて軽く咳払いをした。
「多分、人は殺さないんじゃないかな」
そう言って、オルキウスは金の目を細めた。
その日の放課後。
オルキウスは学園の生徒たちにきゃあきゃあと騒がれながら、門の外に停めてある黒塗りの車に乗り込んだ。
「おかえりなさいませ、若様」
運転手の言葉に「うん、ただいま」と言って席に座る。
「オルキウス様、さようなら!」
「さようなら」
車の外から手を振ってくる生徒たちに爽やかな笑顔を向けると、運転手がドアを閉める。
ドアを閉めると、黒いブラインドがおりた窓からは生徒たちの姿が見えなくなった。
「────出せ」
その瞬間、全ての表情を消して、オルキウスは低く告げた。車が静かに走り出す。
「若様。明日のご予定は……」
「外では若様と呼ぶなと言ってるだろう」
運転手の言葉に、オルキウスは足を組んで座ったまま告げた。
「明日は休みにする」
「は……いえ、しかし、明日は海洋評議会が開かれます。新たな神託が下ったようです」
運転手が焦ったように言い募る。
「各家当主も集まるそうですが……」
「……二度言わすな。休む」
金色の瞳を炯々と光らせて低く告げると、運転手はミラー越しにびくりとして目を逸らした。
「……承知しました。しかし、いったいどのような理由で……」
オルキウスはふっと目を閉じ、小さく息を吐いた。
「──ピクニックだ」
そう答えて、明日を楽しみにするようにひっそりと口角を上げた。
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