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第9話 暴れ鮫、生徒会へ
その後は、シナリオ通り学園長がやってきて騒ぎを鎮めた。
ただ、ゲームと違うのは、レンの誤解が解けたこと。それから──オルキウスがいたことだった。
レンは午後の授業でぼーっと窓を眺めた。
「暴れ鮫、最近なんで皆勤なの……?」
「すごい真面目に教科書開いてんじゃん……」
「怖……」
生徒たちのひそひそ声も耳に入らない。
レンはペンを手に持ったまま考えていた。
『なんでシャチいないの!? シャチこそ王道の攻略対象じゃん!』
優太だった時、『蒼ロイ』をプレイして、真っ先にそう嘆いた。
シャチは王道の海洋生物で、人気も知名度も高い。別名、海のギャングだし、キャラも作りやすいだろう。
その時、ふと頭の隅で設定資料集のページが思い浮かんだ。
『いやあ、最初は別のキャラも攻略対象としていたんですけどね』
開発者インタビューだった。
「え、それってシャチでは?」と思ったのを覚えている。
当時、一番怪しいと言われていたのが、ゲーム本編には登場しない生徒会副会長だった。
まさにオルキウスのポジションだ。
オルキウスはビジュアルも飛び抜けて良い。明らかに攻略対象と同じくらい力が入れられている。
『ライバルキャラとして制作していたのですが、どうしても別キャラクターとのイベント量が多くなってしまって…… 』
当時ネットではいろんな噂があった。
未実装の理由は明かされていない。
「……あの」
考え込んでいると、誰かに話しかけられた。
「あ?」
反射的に凄んでしまう。
しかし、そこにいた人物を見てレンは目を見開いた。
「……アクア?」
そこには、少し怯えたように顔を引き攣らせているアクアがいた。
「授業、終わりましたよ」
「お、おう」
確かに見てみると、もうすでに授業は終わっていて、放課後になっている。
(なんで俺に……?)
アクアがなぜ自分に話しかけたのかわからず、訝しんでいると、アクアがにこりと笑った。
「良かったら、一緒に生徒会の見学に行きませんか」
「……は?」
思わずぽかんと口を開ける。ギザ歯がだらしなくのぞいた。
「僕、生徒会に入ろうと思うんです。アルシオンさんに誘われて。でも、一人では行きにくいので。副会長さんと仲が良さそうでしたし」
アクアの物おじしない様子に、レンは驚いた。
昼休みにアルシオンへ意見した時も驚いたが、今度は自分から暴れ鮫に話しかけてきた。
(……肝、据わりすぎだろ)
自分とは大違いだ。
「な、なんで俺……?」
かすれた声が出た。
アクアの口元が弧を描いた。
「僕たち、お友達でしょう?」
レンは敗北を感じた。
なんの勝負かはわからない。
でも、目の前で笑うアクアが、眩しく見えた。
「お邪魔します」
「……邪魔するぜ」
その後、レンはアクアの後ろから生徒会室の扉をくぐった。
生徒会室の前できゃあきゃあと黄色い声を上げる男子生徒たちを不思議な気持ちで見る。
(そういや、BLゲームだからほとんど男しかいねえんだった)
ゲームでは攻略対象たちとアクアがつがいになって子供まで作っていた。
当時は「とんでもない設定だな」と笑ったものだ。
礼儀正しく頭を下げるアクアの後ろで、レンはポケットに手を突っ込んだまま入室する。
我ながら、柄が悪い。でも、普通に入室しようとしても自然とこうなってしまう。
オルキウスと目が合った。オルキウスは目を一瞬見開いた後、アクアに視線をやってすっと目をすがめた。
「……やあ。君はカフェテリアの子だね」
オルキウスが笑顔でアクアを歓迎する。なんと握手までしようとしている。
「あ、どうも」
アクアもにこやかにその手を取った。
(お、俺だって握手したことないのに……!)
衝撃が走るが、すぐに思い出す。
(……いや、待てよ)
『関係ない。行くぞ』
そう言われて、手をつないだ。
(俺の方が上だ……!)
どうだ、オルキウスの手は意外とでかくて包容力があるだろ。そんなことを考えてじっと握手を見つめていると、低くて威圧感のある声が聞こえた。
「なぜ、鮫がここにいる」
レンを睨みつけているのはアルシオンだった。アルシオンが大股で歩いてくるので、レンは不敵に笑って待ち構える。
(なんで俺ってこうなるんだ……?)
争いは好きじゃない。
前世の記憶を思い出す前なら、むしろ好んでいた。でも、今はただただ怖い。
それなのに、挑発してるようになってしまう。
アルシオンが山のように目の前に立ち塞がる。
「……な、なんだよ……やんのか?」
優太なら一目散に逃げているところだが、レンの足は動かない。むしろ一歩前に出て好戦的に見上げてしまう。
「二人とも。落ち着いて。近いよ」
オルキウスの腕に抑えられて、ハッとする。
すっかり王子様モードのオルキウスが笑顔でレンとアルシオンを引き離す。
「まずは彼らの話を聞こうじゃないか」
「……そうだな」
オルキウスの言葉に、アルシオンはため息をつくと、しぶしぶ頷いた。
一言で場を納めてしまったオルキウスに、レンは思わず尊敬の眼差しを向けた。
「僕、生徒会に入ろうと思います」
レンはハッとした。
(生徒会に入るのは王道ルートだ)
序盤のアクアの選択肢は二つある。一つは生徒会に入ること。もう一つは入らないことだ。
生徒会に入る選択肢を選ぶと、生徒会役員とのルートに定められる。
(でも……)
今回はシャチのオルキウスもいる。それはどう影響するんだろうか。
そして、はたと気がついた。
(あれ、俺もいるじゃん)
悪役令息である自分もいる。本来なら、アクアが生徒会に入ったことで、レンの裏ルートにはいけなくなる。
しかし、なぜかここには自分がいる。
頭に『断罪回避』の文字が駆け巡る。
レンは気がついたら口を開いていた。
「俺も、生徒会入る」
そう言った瞬間、悲鳴が上がった。
「あ、暴れ鮫くんが……!? ちょちょちょ、どういうこと!? めっちゃ面白いんだけど!」
「えええ。大丈夫ですかねえ」
会計が興奮したように机をバンバン叩き、庶務はおっとりと目を見開いている。
そして、アルシオンは憎々しげにこちらを見ていた。
アクアは前髪に隠れて表情はあまり見えないが、口元が驚きの形に開いている。まさか入るとは思わなかったのか。
レンはオルキウスをちらりと見た。
オルキウスはなんとも言えない表情をしていた。
王子様スマイルが崩れて、レンと二人でいる時の『オル』の顔になっている。
レンは堂々と宣言した後で、だらだらと冷や汗をかいた。
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