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第11話 攻略、開始
「い、いや、あの、お、オル……?! あ、あのよ、さ、散々触っといてアレだけど……」
レンは半ばパニックになりながら、思わず海獣化を解いた。顔の前でやたらと手を動かす。
違う。そう言う意味じゃないんだ。
そう伝えようとするが、「ん?」と思い当たって首を傾げる。
(あれ? オルって今までずっとオッケーしてくれてたよな……? ……え?)
つまりそれは。
〝オッケー〟ということなんだろうか。
「え……ええええ〜〜〜〜!?!?」
思わず真っ赤になりながら吠えた。
オルキウスは迷惑そうに海獣化を解いて耳に手を当てた。
「なんだ、急に。……ああ、思い出したか?」
真っ赤な顔で口をぱくぱくさせているレンを見て、金の目を細める。
人型になった姿は改めて見るととんでもなく美形だ。
「な、ちょ、え……っ」
「どうせ深く考えてなかったんだろう」
「いやたしかに好きだけど、そうじゃなくて、いやもちろん嫌いとかじゃないけど………………え??」
レンは目を丸くしてぴたりと動きを止めた。
「わかってたのか……?」
オルキウスは呆れたようにため息を吐く。
「あんな告白があってたまるか。……わかってるから、安心しろ」
「え、ええ……」
レンは脱力した。
心臓がドッドっと早鐘を打っている。
そして、なぜか少しテンションが落ちている自分がいた。
(いやなんでだよ)
心の中でツッコミつつ、レンはぶくぶくと顔の半分まで海水に浸かる。
「ああ。それと。もうベタベタ触られてるから、今更遠慮されても気味が悪いだけだから、今まで通りでいろ」
「……う、うん……」
(い、良いのか、そんなんで)
レンは慄きつつ、自分が言えたことじゃないとハッとした。
◆
「皆、聞いてほしい」
その日、珍しくアルシオンが真剣な顔をしていた。
今までも別にやる気がなかったわけではないのだが、どこか気だるさが前面に出ていた。それが、今日はいつになく厳しい顔つきだ。
(きた……)
レンは心の中でつぶやき、ごくりと喉を鳴らした。
「……大災厄の伝説は、知っているな」
アルシオンは会長席で真面目な顔をして手を組んでいる。
「えー? それってあれでしょ。なんか怪物がユートランティアを滅ぼそうとするやつ」
「もちろん知ってるよ」
フィンが会計席にもたれかかり、くるくると椅子を回す。ルカはまばたきをしてアルシオンを見る。
レンはちらりと隣のアクアを見た。
アクアはうつむいている。
アクアを見るレンを、オルキウスが見ていたことには、レンは気が付かなかった。
「……先日、神殿から神託が降りた」
アルシオンは重々しく切り出す。
「どゆこと?」
フィンが椅子の回転を止めた。
「大災厄──リヴァイアサンが千年の眠りから復活する」
レンは、ぐっと拳を握った。
アクアを見ると、前髪から覗く桃色の瞳が強い意志が宿っているように見えた。
(始まった……)
ユートランティア王国のカウントダウン。
そして、レンの断罪までのカウントダウン。
「ちょ、ちょっと待って。あれって御伽話じゃなかったの??」
フィンが困惑したようにハンズアップする。
ルカが首を傾げた。
「本当の話……なんだよね?」
アルシオンは厳しい表情を崩さない。その様子に、生徒会室がしんと静まり返った。
「……どうしようか」
口を開いたのは、穏やかに口角を上げたオルキウスだ。
アルシオンは重々しいため息を吐く。
「今後、リヴァイアサン対抗戦力を育成するために、学園の生徒たちも含めてすべてダンジョン捜索が優先される」
「それってつまり」
ルカがぱちぱちとまばたきをした。
「授業よりも、ダンジョン優先……ってことだよね? はは。嬉しいはずなのに、全然嬉しくない……」
フィンが脱力するように椅子に沈む。
「俺たちも、ダンジョン捜索に専念しろとのことだ。……わかってるな」
そこでアルシオンは一度言葉を区切った。
「────俺たちが、最前線に立つ」
その言葉に、フィンが「やっぱりー」と悲鳴をあげた。
レンは隣に立つアクアを見つめる。
頭の中で、ゲームの処刑シーンが浮かぶ。
鎖。
処刑台。
力を奪われ、民衆に笑われながら首を落とされるレン。
(嫌だ)
ぐっと腕を掴む。
(絶対に、あんな死に方はしたくねえ……)
そのスチルを振り払うようにぶんぶんと首を振った。
ゲームでは、レンはリヴァイアサン襲来に乗じて国家転覆を企てたとされ、力を奪われた末に処刑される。
自分が国家転覆なんて考えるはずもない。
だが、それでも安心はできなかった。
ここまでは、確かにゲームでは見たことのないルートに入っている。
しかし、処刑という結末だけは、そう簡単に変えられるとは思えなかった。
「だが、ダンジョン攻略は危険がつきまとう。だから、ペアやチームを組むことが義務付けられる」
ぐるぐると断罪のことを考えていたレンだが、アルシオンの言葉ではっと顔を上げた。
「俺は!」
思わず吠えた。
全員の視線がレンに集中する。
みんな、突然大声を上げたレンに怪訝な顔をしている。
レンは勢いよくアクアの腕を掴み、掲げるように持ち上げた。
「アクアとペアを組む!」
アクアが驚いたようにレンを見上げている。
そして、みんなが驚いている中、一人だけ冷たい表情をしている者がいた。その金の瞳がじっとレンとアクアを見つめていることに、興奮しているレンは気が付かなかった。
レンの頭の中はただ一つのことでいっぱいだった。
(アクアを攻略して、レンルートにする……!)
珍しくアルシオンが気圧されたように目を見開いていた。そして、思わず頷きかけた時。
「……二人だけだと心配だな」
低い声が遮った。
見てみると、にこやかに笑うオルキウスだった。
しかし、その顔を見てレンはびくりとした。
(なんか、圧すごくね……?)
「確かに、暴れ鮫と二人きりはアクアが心配だ」
オルキウスの言葉に、ハッとしたようにアルシオンが頷いた。
レンは愕然とする。
「レン」
オルキウスはレンたちへ向き直った。
「俺も入るよ」
これ以上ないくらい爽やかな笑みに、レンはひきつった笑みを浮かべた。
「……え?」
「異論はないな」
アルシオンの一言で、その場で三人一組が決まった。
それから、レンのアクア攻略は本格的に始まった。
「アクア! 昼飯食べようぜ」
「あ、レン。偶然だね。俺も一緒に良いかな」
「お、オル? お、おう」
「……アクア! 次のダンジョンだけどよ」
「レン。そこ、アクアはまだレベル的に足りないから、俺ら二人で行こう」
「オル。お、おう……」
「…………アクア!」
「レン」
「……オル」
「………………アクア!!」
「レン」
「……………………アクア!!!」
「レン」
「なんでだよおおおおおおお!!!!」
悲痛な叫びが、生徒会室中に響き渡った。
「ちょ、なに、うるさい」
フィンが耳に手を当てて顔をしかめる。
「うるせえええ! これが叫ばずにいられるかああ!」
ビリビリと空間が震えるほどの咆哮をし、レンは地団駄を踏んだ。
「子供みたい」
ルカがおっとりとレンを見ながらつぶやく。
アクアは苦笑いしていた。
アルシオンは心底嫌そうな顔をしている。
そして、オルキウスはというと。
「どうした? 話聞こうか?」
満面の笑みでレンの肩を叩く。
レンはオルキウスのきらきらとした王子スマイルを見て目を見開き、体をわなわなと震わせた。
「ぐああああああ!!!」
言葉にならない感情のまま、恐竜の如く吠える。
生徒会室の窓ガラスがびりびりと震えた。
「だからうっさい!」とフィンにペンを投げられて、頭にヒットした。
でも、HPは一ミリも減らなかった。
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