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第7話 恋人の振り
本のページをめくっていたクリシェは、顔を上げた。
「これじゃないかもですね。あっちの上の本でしょうか」
手を伸ばすが、届かない。踏み台を探すが、見当たらない。
仕方なく、背伸びして手を伸ばした。
「届かない……ですね」
「これか?」
ひょいと本を取ったガレスに、手渡された。
「ありがとう、ございます」
小人族のクリシェより、ガレスのほうが三十センチ以上は背が高い。簡単に手に取れるのは当然なのだが。
(いつから裏にいたのでしょう)
クリシェが気になったのは、むしろそっちだった。
「呪いの指輪、心当たりがあるのか?」
ガレスが本のタイトルに目を落とした。
「えっと……そうですね。ちょっと引っ掛かったので」
やっぱり、マナとの会話を聞いていたようだ。
恋人のくだりも、きっとしっかり聞いていたことだろう。
(ガレスに対してそういう気持ちはないのに、恥ずかしくて落ち着かないのは、何故でしょうか)
急にいたたまれない気持ちになってきた。
「どんな呪いなんだ?」
ガレスが身を乗り出した。
「え! えっと、婚約指輪に宿る死の呪い……」
ガレスの顔が近付いて、思わず後ろに一歩下がった。クリシェは慌ててパラパラと本を捲った。
「あった、これが近いですね」
クリシェは本のページをガレスに見せた。
「婚約者の王子に何度も裏切られ、婚約指輪をしたまま自らの胸に剣を突き立てた女性の怨念」
ガレスが本の一文を読み上げた。
「アスランズ神話の一節です。恐らくは神話になぞった呪いを誰かが作ったのだと思いますが……この呪い自体が古いんです。呪いが宿った指輪も行方知れず、と本には書いてありますね」
記述の部分を指さす。
「行方知れずの指輪が見付かったわけか」
ガレスが険しい顔をした。
「マナおばさんは噂好きな人ですし、どこまで本当かわかりませんよ。神話が起源なだけあって、噂になりやすい呪いでもありますから」
「けど、気になったからクリシェは調べたんだろ?」
「まぁ、そうですが」
噂になり易い分、殺傷力も高い。本当なら危険な指輪だ。
「二人で調べてみないか?」
「噂の指輪の呪いを、ですか?」
クリシェの問い掛けに、ガレスが頷いた。
「もし本当で、その指輪を何とかできたら、善行に繋がるかもしれない」
確かに、神話レベルの呪いをどうにかできれば、善行には違いない。
「それはそうですが、見付けたとして、どうやってどうにかするかが問題ですよ」
「クリシェが浄化できないのか?」
「やってみないとわかりませんが、恐らく無理ですよ。神話級の呪いを浄化なんて」
いくら小人族は魔法が得意といっても、魔導師や牧師レベルの浄化魔法を使えるわけではない。
「できそうな気もするけどな。できない場合、どうするんだ?」
クリシェは本を眺めて考え込んだ。
「……指輪を破壊するか、封じるか、ですかね」
対処法の部分を指さす。本にはそう書かれている。
「破壊なら、俺が得意だ。これでも魔導剣士だから」
クリシェの肩が、ビクリと跳ねた。
攻撃特化の魔導剣士は、竜すらも殺せるほどの魔術を扱う。
「そうですよね」
クリシェはもう一度、本に目を落とした。
(指輪は道具ではないですが、人が使う物には違いありません。壊すのは、忍びないですね)
とはいえ、危険な呪物には違いない。壊せる人間がいるなら、壊したほうがあとくされもない。
「気が乗らないか?」
ガレスが心配そうにクリシェを覗き込んだ。
「まぁ……気が乗るかと聞かれれば、難しいですが。噂を聞いたのも縁ですから。調べるだけ調べてみましょうか」
ガレスの表情が、明るくなった。
「恋人の振りを、してみるか?」
「えぇ! どうして?」
突拍子もないガレスの提案に、即答できない。
「婚約指輪なのだろう? 恋人の振りをして探すほうが、早い」
「それは、そうかもしれませんが」
思考が直球すぎる気がする。
「俺とでは、嫌か?」
ガレスが眉を下げた。そんな悲しそうな顔をされても困る。
「ガレスが嫌とか、そういう話ではなくて、ですね」
マナの娘の旦那が宝石商だと話していた。バレたらどんな噂になるか知れない。
「変装でもしていけばいい。案外、バレないぞ」
「そういうものですか?」
ガレスの言葉が軽くて、どこまで信用していいかもわからない。
「騎士団のコネも、ある程度なら使える。心配ない」
何やらガレスがやる気だ。
(これだけ押すのだから、勝算があるのでしょう。乗ってみましょうか)
クリシェは渋々と頷いた。
「でしたら、ガレスの策を信じます」
「あぁ、信じてくれ」
ガレスが嬉しそうに笑った。
その顔があまりに明るかったので、信じてみることにした。
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