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第6話 呪いの指輪

 ガレスが修理屋に住み込みで働き始めてから、五日ほどが経った。  善行も見付けられず、いつもと変わらない生活を送っている。天使の羽の数も変わらないままだ。 「クリシェ、ごきげんよう」 「マナおばさん、いらっしゃい」  店に来たのは、常連のマナだ。近所に住んでいるので、困り事があるとよくやってくる。 「家にある魔法ホイッパーが壊れたの。直せるかしら」  マナが泡立て器を鞄から出した。受け取って、じっくり観察する。 「随分年季が入っていますね」  型も古いが、かなり使い込まれているようだ。 「やっぱり買い替えたほうがいいかしらねぇ。娘が新しいのを買ってくれるって言うんだけど、使い慣れているから、これが良いのよねぇ」  頬に手を添えて、マナが思い悩む顔をした。 「直せると思いますよ」  クリシェはホイッパーに魔力を込めた。動かない。魔力を繋ぐ導線が切れているようだ。導線を新しいものに変えれば、十分使える。 「まぁ、本当に?」  マナの顔が、ぱっと明るくなった。 「修理できそうだから、やってみます」 「ありがとう、助かるわ」 「これだけ大事に使ってもらえたら、道具も冥利に尽きますよ。きっと、喜んでいますよ」  マナが持ち込んだ泡立て器は、同じ型が販売終了している。新しいものは形から違うから、手に馴染まないのだろう。似たような理由で、マナからは何度も古い道具の修理を頼まれている。 「お願いね。どれくらいかかりそう?」 「二日もあれば、何とかなると思います」 「それじゃあ、二日後にまた来るわね」 「はい。お代は、その時に」  帰ろうとしたマナが、足を止めた。 「そういえば、新しい従業員を雇ったんですって?」  マナが店の中をキョロキョロする。 「背が高い色男がいるって、噂になっているわよ」 「噂ですか」  クリシェは苦笑いした。 「臨時で従業員を雇ったんです。最近は、僕一人だと回らない日も多くて」  仕事量的に、一人でも充分回る。別の理由は絶対に言えない。  呪いを受けたなんてバレたら大事だ。クリシェは腕に包帯を巻いて、長袖シャツを着て誤魔化している。 (背の高い色男の従業員が、元王立騎士団の魔導剣士だって知れたら、もっと噂になりそうです)  ガレスを店先に立たせないようにしようと、クリシェは心に誓った。 「今度、紹介してちょうだいね」 「えぇ、まぁ……機会があれば」  噂好きのマナだ。商品受け取りの時にも同じことを聞かれるに違いない。その時はガレスに外にでもお遣いに行ってもらおう。 「そういえば、怖い呪いが出回っているって噂、知っている?」  マナが声を潜めた。 「怖い、呪い?」  クリシェは思わず右腕を抑えた。 「娘の旦那が宝石商なのだけれどね。大騒ぎなのよ」 「宝石の呪いですか?」  マナが首を横に振った。 「指輪の呪いですって。その指輪を嵌めると、三日のうちに死に至るって。怖いでしょ」 「それは、怖いですね」  クリシェは、ごくりと息を飲んだ。 「婚約者に裏切られた女性の怨念が呪いになったって噂よ。だから、婚約指輪に紛れるのですって。気を付けなさいね」 「僕ですか? 僕は恋人もいませんし、心配ないですよ」  マナに注意されて、これまた苦笑いした。 「背の高い殿方が、恋人なんじゃないの?」  マナが不思議そうに首を傾げた。 「え……えぇ!」  あまりに予想外の問い掛けに、叫び声が出た。 (アスランズ王国では同性婚が普通ですが、それにしても飛躍し過ぎです)  同性同士でも魔法を使えば妊娠できる。また、魔種という特別な種を持つ体質なら、魔法を使わなくても同性同士で妊娠可能だ。そういう理由で、同性婚が認められている国だ。 「違います、違います。本当にただの従業員です」  慌てて否定した。 (ガレスが恋人なんて、あり得ません)  マナが残念そうに眉を下げた。 「あらぁ、そうなの? ちょっと残念だわ。クリシェにも春が来たのかと思ったのに」 「僕はそういうの、まだまだです」 「そう? クリシェだってもう二十二歳なんだから、考えても良い年齢よ」 「そう……かもしれませんけど。でも、違いますからね!」  ちょっと強めに念押しした。  マナ経由でガレスが恋人として噂になったら、大変だ。 「わかったわ。クリシェにも素敵なお相手が現れること、祈っているわね」  マナが手を振って帰って行った。  その姿を見送る。店の扉が閉まると、どっと疲れが押し寄せた。 「お仕事とは違う意味で疲れました」  肩を落として、クリシェは呟いた。 「……それより、呪いの指輪、ですか」  マナが話してくれた噂の中で、一番気になった。  店内に置いている呪いの本を手に取る。クリシェはページを捲った。

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