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第二十五話 始まりの予感、ドアを閉じる
家の中に入った途端、紗生 の長い指がトオルの華奢なアゴを捉えた。紗生は無理矢理にトオルの目を自分と合わさせると、トオルにしか見せることのない、甘い表情で催促した。
「トオル先輩、チューしてください」
「ふぁ…っ、………僕がするの?」
「……ダメですか? さっき外で、あんなに誘っておいて、自分は何もしないなんて言わないですよね、トオル先輩?」
すっきりと片付いた玄関の狭い空間で、紗生はトオルの両肩を掴んで、そのまま白い壁へと押し付けた。ドサリ、とトオルの背中が壁に当たる。
ぎゅっと固く目を瞑ったトオルの顔に紗生の低い声が落ちてきた。
「トオル先輩、まだ目を閉じるのは早いですよ。もっと顔を近づけてからでないと……自分からキス出来ないですよ?」
そう言いながらも、紗生は唇を突き出して顔を寄せてゆく。
トオルは懸命に紗生の肩にちょこんと手を乗せてモスグリーン色の薄いニットをキュッと掴むと、少し首を左に傾げた。
ちゅっ、と柔らかく唇が重なって離れた。
(……これで、いいのかな?)
トオルはどうだっ、とキラキラした瞳で紗生を見上げた。
次の瞬間――トオルの可愛らしく尖らせたピンクの唇が強奪された。
半開きになった口の中に、紗生のしなやかな舌が押し入り、歯ぐきの裏へ上顎へと這うように滑り込んだ。
ゾクっとするような快感に、驚いてトオルは自分の舌を奥へと引っ込めた。
(あっ…ひゃぁっ……!」
キスの味から葡萄ジュースを連想したトオルは、ふと明日の仕事を思い出した。
(あれ?……これキスだけで終わる、のかな?
紗生くん、終わらせてくれるよね………?)
その考えとは裏腹に、互いの荒い吐息とイヤラシイ水音だけが酸欠のような頭の中でくらくらと反響する。
「あぁ……」
(唾が溜まってきちゃった、これ、どうしよう……!)
唾液が急速に満ちて来て、言い出せないトオルは焦って、イヤイヤと首を振り、顔を背けて逃がそうとする。
しかし、逃がす気などない紗生は、両手でトオルの頭を抑えこみ、唾を外に吐き出すことを許さなかった。
口の中を溢れ返る唾液と紗生の舌とで満たされ、他の選択肢をすべて奪われたトオルは、紗生の熱を受け入れながら、その水分を自分の喉の奥へとゴクンと飲み下した。
トオルは足に力が入らなくなり、自分の身体を紗生にすがることでしか支えていられなかった。
紗生の体液を注がれる感覚に、昨夜の記憶が蘇り、トオルのアソコが切なく締まる。
「紗生…くん……お布団行きたい。
お布団、連れてって………」
「仕方のない人ですね……」
そう言った紗生の目は愛しそうに笑っていた。
トオルの願いに応えて、紗生はその華奢な恋人の身体を寝室へと運んで行く。
その背後の閉じた玄関ドアが、どこでもドアとして開くことは、もう二度とないだろう。
今の二人には、必要ない。
新しい関係が、始まったのだから。
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