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Prologue
血の匂いを、僕はもう憎んでいない。
むしろ懐かしいとさえ思う自分が、そら恐ろしくもある。
記憶することは、呪いに似ている。
一度目を通した書類の文字も、視界に入った地図の断片も、焼け落ちた祖国の紋章も、炎に消えた家族の叫びさえも、僕は一つとして忘れることができない。
だから誓ったのだ。
この帝国の誰よりも多くを知り、誰よりも深く潜り込み、いつか――この手で全てを終わらせると。
鎖に繋がれた奴隷の名を、彼は知らない。
かつて一国の王子であったことも、その瞳の奥に何を映しているのかも。
彼が僕に触れる手は、いつも二つの記憶を連れてくる。
折檻の夜、僕を傷つけた指先。
看病の夜、傷口に触れることさえ躊躇った指先。
いずれも震えていたその指先の、区別がつかなくなってしまった時点で、僕の運命は決まっていた。
氷のような眸をした皇子は、
いつか気づくことになる。
飼われていたのは、
果たしてどちらだったのかを。
これは、僕を支配しているつもりだった男が、気づけば僕に囚われて堕ちていった記録だ。
――始まりは、ただの奴隷だった。少なくとも、彼はそう信じていた。
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