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2章(10)
瑞樹の動きは性急だというのに、荒さはなかった。
むしろ確実に快感の火を大きくさせていくような、一つ一つ丁寧に触れてくるものだった。
首を甘く噛み、鎖骨の痕を指でなぞり、その間にも自分の肌は細かく震え熱を上げていった。
「はあっ、ん、そこ、…っ舐め、たら…っ」
胸の先を舌でなぞられて、腰が浮く。指腹でもう片側を弄られながらどんどん息が上がっていく。
数分前まで、自分は何を考えていただろうか。何を見ようとしていただろうか。
思考が焼き切れていく感覚はあったが、今は瑞樹がくれる唇と指と体温に溶かされていくのに浸りたい。浸らせてほしい。
「あっ!あ、ぁ…ッ、ン、みず、き……っ!」
自分の声が、思ったよりもずっと早く濡れているのが分かった。瑞樹の名前を呼ぶ声が、自分が予期していた温度とは全く違うもので出ていた。気づいたら手を伸ばしていた。
冷たさに刺されるのを待っていたのだと思う。
来るはずだった。瑞樹に口づけられ、触れられた肌からあの日の映像が流れ込んでくるはずだった。今自分の身体を愛撫するこの手が、二週間前に別の誰かに触れていた。互いの香りが混ざってしまいそうな距離だった。
触られれば必ずそれが割り込んできて、身体が拒むか、身体が拒めなくても心が凍るかのどちらかにはなるはずだった。心の方だろうと思っていた。なのに。
──来なかった。
触れてくる手は、いつもの瑞樹の手だった。
熱くて、滑らかな皮膚をした、指の先まで美しくできている男のものである。自分の身体のどこをどう辿れば嬌声が上がるかを全部知っている手。それ以外は何も混ざっていない手と動きだった。
「湊……」
名前を呼びながら伸ばしていた手を瑞樹の手に握られていた。その強さに、熱さに、息が止まりかけた。
通りの向こうの映像を、頭の中に引き戻そうとした。
引き戻して、この熱の上に重ねなければならなかった。自分の手を取ったまま、胸の上に唇を落とし、その先端に舌を這わせる男の体温を、あの冷たさに重ねようとした。
重ならなかった。
通りの光景の一片すら思い出せない。あったはずの光景の輪郭が滲んで、溶けて、今這っている男の感覚の下に沈んでいく。身体はもう開かれていて、この男に少しも抵抗をしなかった。
「随分と感じやすいことだ」
「んあっ、ぁ、あっ、そん、な…あっ!」
「三週間分か」
違うと言いたかった。
三週間の中の二週間を自分がどう過ごしていたのか、自分が何を抱えていたのかを、この人は何も知らない。どんな計算をして、最後にそれが合わなくなって、その途中で自分の内側を襲ってきた寒さなど少しも考えつくはずがない。どんな思いでこの二週間の空白を見続けていたのか、何も。
知らないまま、こんなふうに、当たり前の顔で。
「みずき……っ」
呼んだのは意識していなかった。
しかし、名前を呼んだ声が、自分でも驚くほど普通に甘えているのに気づいて、そのことに一瞬遅れて動揺した。
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