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第1話 運命の出会い
「悠 ちゃん、どした?」
友人に声をかけられた悠心 は、目を見開いたままその男を凝視した。
「おい、悠心。もうドア閉まるぞ」
別の友人が悠心の肩をぐい、と掴み、引きずられるようにして電車に乗り込む。
車両には黒い学生服姿の生徒たちがまばらにいる。どれもこれも皆一様に柄が悪い。
同じ制服を着た悠心は、思わず隣の車両に通じるドアに駆け寄ってびたりと張り付き、その男をまばたきもせずに凝視した。
アーモンド型の茶色い目が限界まで見開かれている。ぽかんと開いた唇にはリングピアスが開いている。
「な……な……」
わなわなと震えながら呟く。
隣の車両にいるのは、白い学生服に身を包んだ学生たち。皆いかにも育ちが良さそうで、悠心の乗っている車両とはまるで別世界だ。
ドア付近に立っていた学生が悠心の姿を見てびくりと後ずさる。そのままドアから離れていき、仲間たちと共に悠心を見ながらこそこそ話し始めた。
ドアの窓越しに、悠心の姿が反射して映る。
どぎついピンク色に染められた髪の毛。耳に開けられたいくつものピアス。左眉と唇にもリングピアスが開けられている。
黒い学生服は着崩され、指や腕、胸元にはごついアクセサリーがつけられている。
首元には銀の装飾がされた黒い首輪が嵌められている。
そんな悠心が一心不乱に見つめているのは、一人の学生の姿だった。
座席に深く腰掛け、読書をしている学生。黒髪に黒目。すっと整った高い鼻梁に、すっきりとした男らしい輪郭。長い指がページを時折めくる。そして、座っていても隠しきれていないプロポーションの良さ。
白い制服を寸分も着崩すことなく着こなしている。アクセサリーの類は一切着けていない。
禁欲的で、清廉な姿は一際強い存在感を放っていた。
「なんだ……あのイケメン……!?」
悠心はわなわなと震えながら呟いた。
茶色の目にはその男の姿しか映っていない。目元はほんのりと赤らみ、潤んでいる。
悠心はピアスの開いた唇を思わず開く。
「え……好き……」
その言葉だけが柄の悪い車両にぽつりと落ちた。
『ヤンキーΩは堅物生徒会長に乙女化する』
「また出たよ、悠心の一目惚れ」
後ろでは友人たちのため息が聞こえてくる。悠心を見ながら苦笑しているのは宏樹 だ。
「何回目だ?」
そう言ってうんざりしたようにため息を吐く那智 。綺麗に染められた金髪に気だるそうな垂れ目が特徴的だ。
悠心はハアハアと呼気を荒げながらじっと隣の車両を凝視している。悠心に気がついた隣の車両の学生たちからはドン引きの目で見られているが構わない。
「や、今回は……ちげえ。なんか……ちげえ」
ぶつぶつと言いながら凝視している悠心に構わず、後ろでは友人たちが「てか朝から学校行くの珍しくね?」「だって一限の生物あと二回出なかったら単位出ねえらしいから」と雑談している。
隣の車両を凝視し続けること十分ほど。
やがて、電車が目的の駅に着いた。電光掲示板には『白蘭 高校・黒条 高校前』と表示されている。
扉が開くと、一斉に白と黒の学生服を着た生徒たちが降車していく。
前半車両からは白い学生服の生徒たちが。そして、後半車両からは黒い学生服の生徒たちがそれぞれ降りていく。
駅を出た瞬間から、白と黒が左右に分かれて歩いていく。
白い学生服の生徒たちに比べて、黒い学生服の生徒たちは人数が少ない。白い学生服の生徒たちは落ち着いた様子で参考書を手にしている一方、黒い学生服の生徒たちは眠そうにスマートフォンをいじったりあくびをしたりしている。
「朝からガッコー来る俺ら偉すぎじゃね?」
「それな」
ぎゃははと笑っている黒の制服姿の生徒たちを、白の制服姿の生徒たちが白けた目で見る。
「はあ……朝から黒のやつら見ると気分悪い」
「本当。こっちまで下品になりそうだよね」
ひそひそと生徒たちが小声で囁く。
「なんだあ? やんのか、おい!」
「やめろ。ガリ勉のお坊ちゃんたちは器もあそこも小せえんだよ」
黒い制服姿の生徒がガルガルと威嚇し、仲間になだめられる。しかしなだめる生徒もまた柄が悪そうな姿をしている。
白と黒の生徒たちは水と油のように一切交わることなく、自校へと向かっていく。
偏差値七十超えのエリート校、白蘭高校。
偏差値四十未満のヤンキー校、黒条高校。
真逆の二つの高校は、隣接していた。
隣り合う二つの校門へ向かって歩いていく生徒たち。両校、どちらも男子校なので、女子の姿はない。
水と油のように交わらない、白と黒。しかし、そこに混ざっていく黒い制服があった。
ふらふらと吸い寄せられるように例の男に近づいていく悠心。
「ちょ、おい、悠ちゃん!」
「悠心、何してんだお前!」
友人たちに肩を掴まれるが、目は目の前の男に張り付いたまま雑に払う。
「え、なになに、なんで黒の奴が?」
「喧嘩か?」
生徒たちの間にざわめきが広がっていく。両校の生徒たちが悠心に注目していた。
「あ、あのっ!」
悠心は男の白い袖を掴む。
男が振り向いた。
黒い切れ長の目が悠心を初めて捉える。
(ひゃ、ひゃあ……顔良……)
胸を高鳴らせながら、悠心はごくりと喉を鳴らした。
周囲は次の展開を固唾を飲んで見守っている。
悠心は意を決して口を開いた。
「な、名前っ! 名前、教えてくれください!」
早口、大声、裏返り。
最悪の第一声となった。
悠心は顔を真っ赤にしながら男を見上げる。
形の良い意志の強そうな眉がぴくりと顰められた。
「……は?」
一言。
男は怪訝そうな顔をした。
黒い瞳に、悠心の必死な顔が映っていた。
それはまるで恋する乙女のようだった。
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