1 / 6
第1話
昼どきを過ぎた午後二時。
サラリーマンの聖地なんて呼ばれる東京・新橋ではランチする場所に困らないというより選ぶほうが大変だ。無数にある飲食店だけれど、気が付けば同じ店にしか足が向かないのは安定を求めている証拠かもしれない。
ベテラン営業マンの浮間匠海 はオフィスに必須な複合機を扱うメーカーに勤めている。新橋エリアの取引先企業に設置している複合機の機械メンテナンスが主な仕事だ。
つい先日、四十歳の壁を突破して、すっかり新橋の街にも馴染んだなと自覚したばかり。
中肉中背なんて言葉は好きではないけれど、食べた分だけ贅肉がうっすらと層をなす。
外食が続いてしまうのはよくないことは分かっている。しかし外回りの仕事をしている以上、弁当を持ち歩くわけにもいかないし、料理が苦手な匠海に作ってくれる家族もいない。
独身貴族を謳歌しているなんて苦し紛れの言い訳で、独りが異様なまでに身に染みる時もある。
特にひとりで食べるメシどき──。
新橋駅の目と鼻の先にある通称「おやじビル」の地下にある定食屋が鉄板の昼メシ。その店の暖簾をくぐると店員が匠海に向かって「何名さまー?」と呼びかける。匠海は指を一本立てて、ひとりだということを店員に伝えた。
「今日は昼過ぎても混んで仕方ないよ。すぐに相席になるかもしれないけど、いい?」
「はい、構いません」と頷いて席に着く。
ひとりで食べるのは寂しいけれど、相席はなんだか気まずい。
それに匠海には変わった性癖があるので、寂しいという気持ちとは裏腹に、誰かと一緒に食べることについて細心の注意を払わなければならないのだ。
「いらっしゃいませ、ごめんね、相席になるけどいいかしら?」
店員の忙しそうな声は匠海の耳にも届く。まだメニューも決めてないのに、さっそく相席になってしまいそうだ。
ともだちにシェアしよう!

