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サイン
「は〜ユキちゃんが恋しいわ〜」
「社長、これからもう1件打ち合わせがあるのでシャンとしていてください」
机の上に突っ伏してだらけていると秘書兼マネージャーにピシャリと言われてしまう。しょうがなく背筋を伸ばし、仕事用の顔をつくる。
「これでいいかしら?」
「はい、十分です。……あれ?社長、今日はネイルしてないんですか?」
普段は頭のてっぺんからつま先までしっかりコーディネートして決めている紫呉が珍しくネイルをしていない事に気が付かれた。
「あぁ、これはね、休息よ。爪も呼吸必要でしょ?だからたまにはね〜」
最もらしい理由を並べて述べる。男性社員にはそれが十分に通用するのだ。だが本来の目的は爪の手入れのためは勿論だが、結季を抱く時に傷つけないため、衛生面を考えての事だった。
だから紫呉の中ではネイルを落とす事=セックスのサインという事になる。
だが、結季はその事には気がついていない。と言うか、すぐにそこまで気が回らなくなってしまうのだ。
「今日は次でおしまいよね?」
「そうです。」
「なら、早く終わらせて帰らないと」
「何かあるんですか?」
「うん、ちょっとね〜」
明日はお互いに休み。何かと忙しい紫呉の休みは不定期で結季と重なることは珍しい。紫呉は仕事があろうが結季に触れる事が活力となる為、いつでも触っていたい。反対に結季は翌日使い物にならないと困るからと触れ合いは極力避ける。けれど明日はオフ、遠慮なくイチャつけるからと張り切って朝から爪の手入れを施していた。
紫呉は順調に仕事を終え、寄り道することなく自宅へと戻った。
* * * * * *
自宅に戻ると結季が夕食の支度を完璧にこなしていた。予め帰る時間を知らせていたから、その時間に合わせて準備をしたらしい。
夕食を終え、今度は紫呉がシャワーを浴びる。
念入りに体を洗い、化粧もオフ。化粧がないとやはり雰囲気は男。バスローブを羽織ってタオルで髪の毛を拭きながら結季の待つリビングへと戻る。リビングではワインを傾けながら結季が待っていた。
「お、ま、た、せ♡」
「……別に、待ってませんが」
「もぉ〜つれないわね」
どうぞと渡されたワインをクイッと飲み込む。芳醇なぶどうの風味が口の中に広がる。1口目は飲み干し、2口目は飲み込まずそのまま結季へキスをして相手の口の中に流し込む。
「んっ……」
「明日は休みよね?」
「……そう、ですけど。それが何か?」
「分かってるくせに、聞きたいのかしら〜?」
「なんの事だか……」
結季は知らんぷりをして口元から少し零れたワインを拭う。知ってるくせに知らないフリをする。
だがそんな事紫呉には関係ない。その気にさせることも紫呉の楽しみの1つ。
「今日は寝かせる気ないから、覚悟してちょうだいね」
「う……その顔は、ズルい……」
化粧を落としたその顔に見つめられ、結季は顔を赤くし俯く。男の欲望を目に宿した紫呉のその目を結季は直視出来なかったのだ。
「さ、行きましょ。……それとも、ここでスる?」
「ここでは……やです」
それだけ何とか小さな声で呟いて紫呉に抱きつく。
「そうね、あっちで沢山愛し合いましょ」
今夜はとことん甘やかして、蕩けさせて、欲しがるほどに焦らそう。紫呉はそんな意地の悪い考えをしながら結季の手を引いて寝室へと向かった。
終
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