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第1話

 満開に咲いた桜の花々が、風に揺られ螺旋を描いてアスファルトを彩る。  新入社員たちは真新しいスーツに身を包み、一様に硬い表情で会社のロビーを通り過ぎて行く。  佐宗千冬は、そんな新入社員を尻目に、いつもどおりに上層階行きのエレベータに乗り込み、自分の所属するシステム部に到着する。 昨年度、弱冠27歳で自分のチームを持ち、営業が新規開拓した顧客のプロジェクトを成功させた実績を認められ、社長賞を授与さた。 入社以来大きな問題もなく今日を迎えたが、千冬の表情は冴えない。 新人の時からお世話になった部長が今年の3月で定年退職し、千冬の席の近くに位置する部長の席が主不在になってしまったからだ。 後任の部長は外部から来るという噂がひとり歩きしているが、未だその噂の人物を目にしたことはない。  ガラス扉のセキュリティが解除された無機質な電子音に、千冬は視線を向ける。 人事部の部長と、新入社員と思わしき男が連れ立って入ってくるところだった。 「みなさん、お仕事中すみません。新入社員の紹介をしたいと思います」  その声でシステム部のメンバーは作業の手を止め、起立する。 「山城俊平と申します。非力ながら皆様の業務に1日でも早く貢献できるよう頑張ります。よろしくお願いいたします」  ダークブラウンの短髪に、褐色の肌の男は人好きするような笑顔で挨拶をした。どちらかといえば、システムより営業向きのような感じを受けた。 人事部の部長がありがとうございました。と締めくくるとそれぞれ形式的な拍手をし、通常業務に取りかかった。 山城を連れて、人事部の部長が千冬に歩み寄る。 「佐宗くん。山城くんなんだけどきみのプロジェクトでしばらく面倒を見てもらえるかな」  首肯すると、山城に向かって微笑む。 「今回はコンペからの参加になりますので、とても勉強になると思います。よろしくお願いします」  仕事では「鬼の佐宗」、普段は「天使の千冬」と陰で噂されていることを知らない山城は、その笑顔にしばらく釘付けになった。

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