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Ⅱ 捜査協力依頼

 経済学部棟を出たエドウィンは同じ大学に通う双子の妹・マリルーに連絡を取った。二人は祖父の車で一緒に通学していたため、駐車場ですぐに落ち合うことができた。 「どうしたの?」 「昼休みに済まないな、ルー。ちょっと車の中で話したいことがあるんだ」  車を開錠しエドウィンが運転席に滑り込むと、マリルーも助手席に乗り込み、ドアを閉めた。その拍子にエドウィンと同じアッシュブラウンのポニーテールがさらりと細い肩を流れる。 「詳しい事情は言えないんだが、経済学の研究員で少し気になる人物がいてさ」 「それって今朝の研究フロア閉鎖と関係あるの?」  聡いマリルーに質問されても事件のことを話すわけにはいかなかったが、エドウィンは正直、彼女の助力は必要だと思っていた。 「ああ、関係あるよ。だが詳細は言えない。ルー、経済学部の内情をよく知っていそうな……例えば大学院生とか? ……に、研究員の不満や噂話などを聞き出して欲しいんだ。そういったネガティブな情報は、学部以外の人間の方が警戒されずに聞き出せるかもしれないからな」 「つまり“聞き込み”ね? いいわよ。今はお昼休みだし」 「ありがとう。頼んだぞ」  エドウィンは妹が快く引き受けてくれたことにホッとして車から出ようとしたが、腕を掴まれ引き留められた。 「待って、エド」 「ん?」 「あの人を頼ってみたら?」 「あの人、って?」  妹の言う『あの人』にエドウィンは心当たりがなかった。マリルーは焦れて、 「ユリウスさんよ」 と言った。 「え……」  マリルーの口から出た意外な人物の名にエドウィンが戸惑う。ユリウスは大企業ヴァルム・コンツェルンの次期総帥で、春休みに双子が首都で単身赴任している父のもとへ遊びに行ったとき、偶然チンピラに絡まれていた彼を助けたことがあった。幼い頃から武術教室を営む祖父に師事していたエドウィンにはチンピラの撃退など大したことではなかったため、名乗らず立ち去ろうとしたものの、どうしてもと懇願されて連絡先を交換したのが縁で友達(?)になったという経緯がある。 「ほら、連絡先を交換してたでしょ」 「え、けど……」  はっきり言って、エドウィンはユリウスが苦手だった。年齢も五歳上で立派な社会人、しかも財閥の御曹司ともなれば、躊躇するのは当然である。 「ほら、早く!」 「わ、わかったよ……」  だが妹にせっつかれてエドウィンは仕方なくスマホを手に取った。 「エド、どうしたんだ?」  数コールで電話に出たユリウスは心配そうな声で尋ねた。スピーカーモードに切り替えてあるのでマリルーにも聞こえる。 「あ、ユリウスさん、お忙しいところごめんなさい。詳しくは言えないんですが、大学で少し厄介な問題が起きたんです。それであなたにも協力してもらえたらって思って」  彼の周囲が騒がしい。どうやらオフィスにいるらしかった。 「何をすればいい?」 「うちの大学の、経済学の研究員について調べてほしいんです」 「もう少し限定できないか?」 「シモンズ教授の研究室に関わりのある人だけでいいんですが……」 「あの高名なシモンズ教授の? わかった。何かわかればすぐに伝える」 「ありがとうございます。……では」 「ま、待て、エド……」  ユリウスが何かを言いかけたが、用件は済んだとばかりにエドウィンは早々に電話を切ってしまった。  ――ほんっと、鈍感よね……  マリルーがユリウスに同情する。彼女は彼が兄に対して特別な感情を抱いていることに気づいていた。彼から兄へ頻繁に送られてくるLINEでも親しくなるきっかけがほしいと思っているのは明白なのに、エドウィンはいつも気づかず、『返信、これでいいかな?』とマリルーに見せてはとんちんかんな返信をしていた。  ――ユリウスさんもエドから連絡が来て、話すチャンスだと思ったでしょうに。  マリルーは溜息を吐いて通話の切れた兄のスマホを見つめた。

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