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Ⅲ 聞き込み

 エドウィンと駐車場で別れた後、マリルーはすぐに経済学部棟の近くにある、経済学部の学生が集まりそうな北キャンパスのカフェテリアへと足を運んだ。まず初めに、経済学の研究員を知る院生にアタリをつける必要があった。  ――学部生は友人と長居して雑談、スマホがデフォ。そうでない人は……  マリルーがカフェテリアを見渡すと、学術誌や論文プリントが入ったトートバッグを無造作に隣の椅子に置き、一人で開いたノートPCの傍で論文に赤を入れている、黒のチェックシャツの年上だと思われる男性が目に入る。  ――そっか。研究室のあるフロアが閉鎖されているから、ここで作業をしているのね。  マリルーはその男性に静かに近づいた。 「あ、すみません。もしかして経済学のティーチング・アシスタントの方ですか?」 「ええ、大学院生です。何故ですか?」  突然若く美しい女性に話し掛けられて院生が目をしばたたかせる。 「私、教育学部のマリルーっていいます。経済学部のシモンズ教授の講義に興味があって……でも、教授ってすごく厳格で、近寄りがたいイメージがあるじゃないですか? 実際はどうなのかなって」  マリルーは“世間知らずな下級生”を演じながら、さりげなく会話を誘導した。 「シモンズ教授? 確かに厳しいけど、中身は温厚だよ。……ただ、最近は研究室の空気自体がピリついているんだ」 「えっ、そうなんですか? 何かトラブルでも?」  院生が溜息混じりに言うと、マリルーは質問の機会を逃さずテーブルに手をつき、身を乗り出した。その反動でぴったりと身体にフィットしたカットソーの胸が揺れ、つい院生の目が釘付けになる。 「いや……まあ、研究方針の食い違いとかさ。特にジョン…ジョン=モローは、教授にかなり反発していたからね」 「ジョンさん?」  マリルーは小首を傾げた。 「ああ。優秀なんだけど上昇志向が強すぎるっていうか。シモンズ教授の『データは公共の利益のためにある』っていう哲学が、彼には甘っちょろく見えてたみたいで。『もっと俺たちの研究を評価してくれる場所があるはずだ』って、愚痴をこぼしているのを何度も聞いたよ」  院生が饒舌なのは、マリルーが美人なのと無関係ではなさそうだ。 「研究を評価……それって、お金のことですか?」 「はは、直球だね。まあ、実際そうだろうな。彼は最近、ローパー教授のところにも頻繁に出入りしてたし。ローパー教授はシモンズ教授のライバルで、企業との提携にも積極的だから、彼には魅力的に見えたのかも」 「ローパー教授……」 「そういえば、」 と彼は思い出したように付け加えた。 「今まで高価なものを身に着けているのを見たことのないジョンが先週、新しい高級な腕時計をしてたんだ。ローパー教授から引き抜きの支度金でももらったのかって、みんなで噂してたところだよ」 「高級な腕時計……あはっ、経済学部って、なんだかドラマみたいで面白いんですね! 勉強になりました。あ、私、次の講義があるので、これで失礼します。ありがとうございました!」  マリルーは明るく爽やかに礼を言うと踵を返した。 「……エドに伝えなきゃ」  カフェテリアを出ると彼女は小さく呟き、兄にLINEを打ち始めた。

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