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第三話 わけあり苺と沈黙のヴィーナス Ⅰ 来客
初夏のある土曜日。エドウィンはユリウスとともに母が経営するハーバータウンのカフェ“ルビー”にやってきた。黒のドレスシャツにアイボリーのスラックスを合わせたユリウスは、彼自身の都会的な雰囲気も相まって、こぢんまりとしたカフェでは浮いて見え、客の何人かが彼に目を見張ったが、エドウィンの母・アルマは特に驚くこともなく気さくに尋ねた。
「いらっしゃいませー……あら、エド。そちらは?」
「友達のユリウスさんだよ」
「初めまして、ユリウス=ヴァルムです。お会いできて嬉しいです」
「……アルマ=ベネットです。よろしくお願いします」
――なぜ息子はこの人と友達なのかしら?
エドウィンの紹介にユリウスがにこやかに微笑んだので、アルマは一瞬戸惑ったものの、微笑んで答えた。
「母さん。ランチセットを二つ、お願い」
「ええ、わかったわ」
オーダーして、ごく自然にカウンター席に座ろうとしたエドウィンの腕をユリウスが引き、
「あの窓辺のテーブルにしよう」
と提案したため、エドウィンは戸惑いつつもともに窓辺の席に座った。窓には生成りの日除け用シェードが下ろされていて眩しくなく、快適な明るさだった。
「休日に君と食事できるなんて、とても嬉しいよ」
「え? はは……そうですか?」
生成りの生地を透過した柔らかい陽光の中で微笑むユリウスが美しくてちょっとだけドキリとするが、エドウィンは笑って誤魔化した。
「……けど、あなたがこんなに早く遊びに来てくれるなんて驚きました」
確かに大学の学園祭で『いつでもハーバータウンへ遊びに来てくださいよ!』とは言ったが……
「今日はたまたま予定がなかったからね」
何でもないというようにユリウスが笑う。もちろん、エドウィンに会うため、全ての先約を秘書に調整させてねじ込んだ休日だとは口が裂けても言えない。
「……ところで。大学はもうすぐ夏休みだと思うが、君はこの夏をどう過ごす予定なんだ?」
ユリウスは早速リサーチを開始した。彼としてはこの夏でエドウィンと交際まで漕ぎつけたいと思っており、そのためには相手の予定を知っておく必要があった。そんなユリウスの思惑などつゆ知らず、
「ええと……ルーが教員を目指しているので、一緒にサマーキャンプのカウンセラーに応募しようと思っていたんですが、来年にするって言うんで、この夏休みはバイトしつつ、たまに母の店を手伝う予定です」
とエドウィンがあっさり答える。
「そうか……バイト先はもう決まっているのか?」
「いえ。これから探すところですが……」
「それなら、我が社が保有するリゾートホテルでバイトしないか? 望むならルーも一緒に」
「えっ!? 本当ですか? 助かります!」
面接に赴いて採用結果を待つロスがないことは単純にありがたかった。そのとき、アルマが二人分のランチセットを運んできた。
「お待たせしました」
「「ありがとう」母さん」
二人はお礼を言って食べ始める。祖母の代からやっている、たっぷりのコーヒー、自家製パンとジャムにバター、ポーチドエッグの載ったグリーンサラダのランチセットはシンプルで安価、今も多くの常連に愛される、ルビーの看板メニューだったが。
「……あの。あなたには質素すぎますか?」
エドウィンは心配になって聞いた。本当はもっと素敵なレストランに案内するつもりが、ユリウスが『一度、君の母親にお会いしておきたいから』という理由でエドウィンの母が経営するカフェ“ルビー”で昼食を取ることになったのである。
「いや、十分だ。特にこのパンは柔らかくて美味しい」
微笑み答えたユリウスに、エドウィンはホッと胸を撫で下ろす。
時折、他愛ない話をしながら食べていた二人だったが、少ししてアルマがエドウィンのもとにやってきた。
「お食事中ごめんなさいね、ユリウスさん。エド、今日中にグレアムさんのところに、わけあり品の苺を取りに行ってくれないかしら? 昨夜LINEが来ていたのに今、気づいたの」
グレアムというのはハーバータウン郊外にあるアンドルー農園のオーナーで、形が歪だったり大きさが不揃いだったり傷があったりと市場に卸せないフルーツを、昔からルビーに安く譲ってくれていた。わけあり品でもひと手間かければそれらは立派なジャムになる。
「わかった。ユリウスさんがいるから夕方になってしまうけど、後で行ってくるよ」
「エド、それなら今から二人で行かないか?」
二人の会話を聞いていたユリウスが提案し、エドウィンとアルマは思わず彼を見た。
「え……けど、この後、街を案内しようと思っていたんですが……」
「そうよ、せっかくお越しいただいたのに……」
親子揃って言うが。
「こんなに良い天気ですし、ドライブするのもいいでしょう」
と言ってユリウスはにっこりと笑った。
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