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(22) ヘビに見つかった龍神
10時からの日勤勤務のペアは土井さんのままでホッとした。
ユニットリーダーの相沢さんの配慮か、ヘビこと鈴木さんは隣のユニットの早番になったようだ。
僕は挨拶だけしてすぐに午前の入浴介助に入る。
手を添えれば車椅子からなんとか立ち上がって歩けるご婦人なので、助かった~。
昨日のエッチで腰が痛いんだよね~。
認知症ではないから、シャンプーとリンス、背中の洗浄だけお手伝いする。
シャンプーとリンスはプロ並みと言われてますよ、僕は!
よ~し、このテクニックで龍さんをメロメロにしちゃうんだからな~!?
このまま何事もなく後1カ月が終われば、お正月が来る。
おせち料理とか作るのかな?その前にクリスマスがあるよ~。
新婚さんだよ?盛り上がるよね~!?へへへ~。
お昼休みに入り、加藤弁護士から養子縁組届が無事受理されたと連絡がきた。
おめでとうとの言葉をもらった。
切ってすぐに龍さんから電話がきて、日曜日に指輪を選びに行くことになった。
指輪してくれるんだぁ、うれしいなぁ~。
土井さんが休憩室にきた。二人きりなので結婚の報告をした。
出会ってから二週間ほどのスピード結婚に驚いていたよ。
僕もびっくりだよ~。
ここでは内緒にして辞めたいと話すと、協力すると言ってくれた。
「 土井さんとはこれからも友人として付き合ってもらえるとうれしいです 」
ペコリと頭を下げてお願いしたよ。だっていい人なんだよ、土井さんは~。
「 こちらこそ、よろしく。おめでとう!落ち着いたらお相手にも会いたいなぁ 」
土井さんも優しい笑顔で喜んでくれた。
「…… 例の件はあれから大丈夫かい? 」
「 今のところ大丈夫です。すいません、ご迷惑おかけして 」
「 困った時はすぐ呼び出してね!」
「 はい、ありがとうございます! 」
お昼休憩後、寝たきりの入居者さん達のオムツ交換をしてから、3時のおやつを提供する。
今日はシュークリームと温かい飲み物だ。
コーヒーや紅茶、緑茶と好みも様々だ。
飲む時に むせないようにトロミ粉を混ぜるのも忘れない。
あれ、さっき車椅子に乗せたタマさんがいない。部屋に戻ったのかなぁ?
認知症だから、ベッドに寝てる時以外は目を配っていないと他人の居室に入って行ったり、鉢植えの球根をかじったりするのだ。
異物経口は事故報告書扱いになるから避けねば~!
パタパタと早足でタマさんの部屋に行くと、
タマさんは自力でベッドに乗り移っていた~。
そしてウンチだらけのオムツを外して布団に隠していたよ~‼︎
転がったウンチはタマさんが掻き集め、布団にインしていたよ~(泣)
皆におやつ提供してからでよかったよ。
「タマさん、汚れたから着替えておやつ食べましょうね ~」
ウンチはシーツでくるんで無視。
まずはタマさんを居心地よくするのが大事!
タマさんにオムツをつけて着替えをする。
認知症の人はオムツの中にウンチがあると、異物として手で捨ててしまうんだよ~。
だからたまに自動販売機の釣り銭口にインされてるんだよね。
未だに犯人は謎だけどね…… 。
「 手を洗いましょうね~ 」
手袋を替えて、たまさんを車椅子に乗せて洗面台で指を一本ずつ洗っていく。
ウンチは臭いが取れないから二度洗いだ~。
休憩から戻った遅番の職員にたまさんを任せて掃除をする。
ウンチを集めて床を洗剤と雑巾で拭きとる。消毒液を薄めたもので拭き上げて終了。
はひ~腰がしんどいな~。
抱きつかれてウンチついちゃった。
早く着替えないと。
シーツを汚染室に片付けて、汚れた衣類は汚染用洗濯機で洗う。
僕は着替えをしに更衣室に急いだ。
更衣室で汚れたポロシャツとチノパンを先に脱いだ時、スマホが震えた。
棚のスマホを見ると加藤弁護士からだった。
何か用事かな?
「 はい、瑠衣です。先程はありがとうございました 」
「 瑠衣君、仕事中すいません。突然だけどスーツは持ってるかい? 」
会長宅に伺う際は、吊るしではなくそれなりのスーツで箔を付けたいとのこと。
加藤弁護士のお勧めの店で急ぎ見繕う事になった。
片手で替えのチノパンを履いて、スマホで返事をしていたら、入り口の引き戸がガラッと開く音がした。
「! 」鍵をかけ忘れてた。
振り向くとヘビがニンマリと目を細めて立っていた。
「 へ~!!佐藤君意外~。ヤバイタトゥーいれてんじゃん。 腰とかって見た事ないんだけど~。ちょっと見せてよ~ 」
落ち着け、自分は|また《・ ・》監禁された訳じゃない。
スマホをさりげなく棚に戻し、チノパンのボタンを留める。
「 マジ騙されてたわー。あんたホントはヤリチンじゃないのー? 」
スマホは通話中のままだ。
とっさにベルトを手に取りバックルの裏ボタンをさりげなく押して棚に置く。
「ちょっと、聞いてるのっ⁉︎ 」
「 お断りします 」
替えのポロシャツを被る。
「 いいから見せなさいよ! みんなにバラすわよ!」
ヘビが激昂して僕に近寄ってきた。
伸ばされた手を払いのけて背後に突き飛ばす。僕は出口に駆け出す。
ヘビは払われた勢いでソファに倒れ込み唖然としていた。
逃げ出すのは今なら簡単だ。けれど…… 。
戸口から振り返って告げる。
「 僕に関わらないでください!」
ユニットのリビングに戻ると、キッチンカウンターに土井さんが来ていた。
夕方の引き継ぎに行った遅番さんの代わりだろう。
土井さんを見つけて力が抜けた。
あ~なんとか逃げ切ったよ~。
「 佐藤君、顔色悪いよ。何かあったの? 」
「 土井さん。僕、鈴木さんに腰のタトゥー見られてバラすと言われました 」
「 タトゥー?」
「 クビになりますか? 」
「…… 分からない。今時はヤクザ以外ならクビには出来ないと思うけど…… 」
土井さんの言葉に黙り込む。
僕は違うけど、お義父さんは…… 。
時刻は16時になり、更衣室から鈴木さんが出てきた。
早番勤務を終えて、私服に着替えるために入ったら僕と鉢合わせしたのだろう。
鈴木さんは洗濯する衣類を抱えている。
介護職員は感染予防の為に、介護時の着衣は持ち帰らず洗濯する。
衣類を洗濯室に置いて戻ってきた。
ヘビは、僕らのところへ来てニタニタと笑った。
「 お疲れさまー。佐藤君、今日飲みに行こうよー。後で迎えに来るから~」
「 お疲れ様です。僕はいきません 」
僕は視線を逸らさずハッキリ 答えた。
「 えー、奢るから遠慮しないでよ!仲良くしようよ!じゃあ終わる頃来るから! 」
「 いやです! 」
「 鈴木さん、佐藤君嫌がってますから。やめてくださ…… 」
「 あんたは黙ってな!じゃあ佐藤君またね~ 」
土井さんも僕もとりつく島もない。
ヘビは土井さんや近くにいた入居者さんに挨拶もせずにバタバタと去って行った。
「…… 佐藤君、帰り送るから。あ、奥さんにこの事連絡して…… いや、怖がるよね。うーん。やっぱりリーダーと施設長に…… 」
「 僕、リーダーと施設長に話して来ます 」
本当に、なぜこんなにもヘビになると強引になるのだろうか?
僕に何か落ち度があったのだろうか、毎回毎回毎回毎回、頭痛がする程考えるけど答えは出ない。
夕食の準備をして、配膳が済む1時間後に事務所に行く事にした。
はぁ、あとひと月しっかり働いて去りたかったのに。
加藤弁護士が施設に現れたのは1時間後のことだった。
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