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(23) 龍青会の『影の猟犬』
施設の夕食は基本、ご飯と味噌汁はユニット職員が作ったものを提供している。
おかずは経費節約の為に湯煎で解かすタイプの冷凍食品がメインだ。
味見したらそれなりに食べれたけど、僕はすぐ飽きてしまいそうだよ。
僕が夕食の準備をして、遅番さんが配膳の担当だ。
「瑠衣君、こんばんは 。迎えに来ましたよ 」
ユニットの玄関に加藤弁護士と施設長が立っていた。
え?なんで?そういえば… 。
「 あ、ごめんなさい!僕通話中だった! 」
スマホもベルトもそのままだったよ。
ヘビのせいで動揺してるよ、僕。
きっとスマホで会話を聞いて、施設に来てくれたのだろう。
忘れててごめんなさ~い。
「 佐藤君、加藤弁護士とお話をして、本日で契約終了になりました 。今日までありがとう 。お疲れ様でした 」
施設長が告げた。え?契約終了?
「 詳しくは帰宅後にでも 。荷物をまとめてください 」
加藤弁護士に促される。
「 でもまだ仕事中で…… 」
終業までまだ2時間ある。
「 佐藤君、事務所からヘルプが来ます。上がってください 」
施設長が言うのなら仕方ない。
話はついているのだから従うのが懸命なのだ。
「 私の車で帰りますから、着替えたら正面玄関に来てくださいね。下で待ってます 」
加藤弁護士はそう言って、施設長と去って行った。
入れ替わりに事務のおばさんがやってきて夕食の介助を始めた。
僕は更衣室に行き、着替えてから置いてある予備の服をまとめて袋に入れた。
派遣会社の提出書類は帰りに出してしまおう。
書類に勤務時間を記入して、向こうのユニットリーダーに判をもらい、提出を頼む。
契約終了を告げて挨拶してきた。
相沢さんは休みだから、最後に一言お礼が言いたかったのに残念だよ…… 。
気のいいおばちゃんでとても良くしてもらったよ。
着替えてから遅番さんや入居者さんにさよならの挨拶をした。
土井さんがユニットリーダーから聞いたのか、慌てて会いに来てくれた。
一階まで見送りの了解をもらってあると言う土井さん。
最後に、本当の理由を告げたくて外階段を下りながら話す。
11月の最終日だから外は日がとっくに落ちて暗い。
電灯がひとつ階段を照らすだけで足元がこころもとない。吐く息も白くなる。
「 土井さん、今までありがとうございました。一緒に働けて楽しかったです。今度うちに遊びにきてください! 」
「 こちらこそありがとう。いい年して|土び井《ドビー》なんて言われて女の子にバカにされてる私を慕ってくれて嬉しかったよ。ぜひ会いに行くよ! 」
うぅ、靴下投げられてましたよね…… 。
階段の下まで着いてしまったよ。
仲間に会えなくるのは寂しくなるな~。
「 土井さん、ぼくじつは……… 」
結婚相手は男性で、ヤクザと関わりある人なんです…… そう告げようとした。
「 あら~佐藤君。今から迎えに行こうと思ってたら来てくれたの~? うれしいわぁ~ 」
暗闇からヘビが這い出てきた。
ヘビが僕の腕をぐいぐい引っ張って道路に歩き出したのを、土井さんが止めに入る。
「 鈴木さん、やめてください! 」
僕の鞄や荷物が振り落とされる。
ヌッと影が近づいて、土井さんを蹴りあげた。
土井さんが倒れこむ。
見知らぬ男が腹に蹴りつけて土井さんが頭と腹を庇い身を縮める。
「やめろ!!」
僕はヘビを振り切り、暴漢に殴り掛かったが、腕を捻じ上げられた。
地面に投げられて腕を蹴られた。伊達メガネも吹っ飛んだ。
僕ヘナチョコすぎか!!
強烈な痛みに脂汗が吹き出して気が遠くなる。アスファルトが冷たい。
「ちょっと!!犯す 前に潰さないでよ!役に立たなくなるじゃないの!! 」
ヘビが喚く。
「うっせえ!どんだけ犯す たいんだよ 」
「 犯す とこ撮れなきゃ金になんないでしょ !!早く運んでよ!!」
土井さんがヘビの足にしがみついた。
「 バカ!離しなさいよ!!キモいんだよ! 」
尖ったブーツで土井さんの顔に蹴りを入れた。
土井さんが鼻血を出してもヘビは止めず、今度はかかとで踏みつけるように顔を潰してる。
暴漢が僕の腕を引っ張りあげる。
そのまま僕を担ぎあげようと正面に周り込む。殴るなら今しかない。
ひ、必殺パ~ンチ!!
からぶり~⁉︎
「 おい、俺のものに何してる?」
龍さん!?
暴漢の頭が鷲掴みされて、身体が浮いた。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ。
みぞおちに数度拳が打ち込まれ、暴漢がぐったりとなった。
地面に落とされ、肩や足に龍さんの長くしなやかな足蹴りが入る。
龍さん目が冷たく光る。影の猟犬。
それよりも狼がぴったりだよ。
僕の狼。不思議と怖さは感じない。
「おーい、その辺でやめとけよ 」
どこからか声がする。
蹴りが止まった。
龍さんが近づいて僕を抱きしめて立ち上がった。
「 瑠衣、遅くなってすまない 」
「 龍さんっ!!」
腕が痛いけど首にかじりついた。
ハッと気づく。
「 土井さんは!? 」
若い男性二人が土井さんを抱えて運ぼうとしていた。
土井さんは気絶しているようだ。
側に駆け寄ると、土井さんは顔面血だらけで鼻はグシャグシャに潰されていた。
「土井さん!!土井さん !!死なないで~ !!う"~じなないで~~ 」
僕の涙と鼻水は決壊して、ダバダバと溢れてきた。
僕をかばってこんな事に!!
土井さんごめんなさい~。
いつの間にか3台の黒いワンボックスカーが道路に止まっている。
真ん中の車に乗せられていく土井さん。
僕は龍さんに抱きしめられ、すがりつくのを止められた。
「 瑠衣、ケガをしてるが命に別状はない。これから病院に運ぶから一緒に行こう 」
別の車に乗るよう促される。
暴漢はぐったりして若い男性二人に縄でぐるぐる巻きにされている。
「 ちょっと、痛いじゃないの!離せよバカ!!」
ヘビが若い男性に拘束されていた。
わめき散らして暴れてる。
「 龍さん、コレ猿ぐつわ噛ませていいっすか? うるさくてやんなるっスよ。」
まだ10代らしい若者がぼやいてる。頭は金髪だよ~。
「 一番後ろの車に投げ込んどけ。加藤弁護士、山本先生へ連絡を。瑠衣の同僚はそこへ運びます 」
「 わかりました。私は施設長と少しお話してから後を追います 」
加藤弁護士は施設の玄関へ歩いていく。
スマホで誰かに連絡しているようだ。
龍さんが僕と荷物を乗せてワンボックスに乗り込むと、運転席に先程の金髪の若者が乗ってきた。
3台のワンボックスカーは、宵闇の中を静かに走り出した。
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